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「……勘違い?」
「うん。買い物に付き合うって約束してただけなの。まさか間違うとは思わなくて」
近くにあったベンチに座り、そう告げられた。
つまり、さっきの言い争いは俺が勝手に勘違いして的外れなこと言っただけだったということだ。
「普通に考えれば……そうでした」
そして、俺は冷や汗をかく。
ふつふつと罪悪感が生まれてきた。
傍から見れば俺はやばい奴で、無理やり怒る理由作って勝手に八つ当たりしたんだ。イライラしてあることないこと言い放った。
あいつの言う通り、今の久郷尊のことは全くもって知らない。なのにあんなひどいことばかり言って、俺の方が最低だった。
「そ、そんな放心しないで!さっきの怒ってどっか行っちゃったわけじゃないと思うし!」
「……そんなわけないです」
「ホントなの!付き合うとかじゃないとか関係ないとか言ったら、あたしが傷つくって思って何も言わずに行っちゃったんだと思う」
「え。どういう意味ですか」
「あたし、尊に一回振られてるからさ」
女の人にこんな事言わせて、無神経にも程がある。
俺は深く頭を下げて、改めて謝罪をする。
「ほんとにすみません。勘違いした上そんなことまで言わせて」
「そんな気にしなくて大丈夫だよ!尊が勘違いされることってよくあるの。見た目怖いし、口悪いし、一見印象悪いでしょ」
「それはもう。つくづく思います」
ふふと軽く微笑むと、嬉しそうな顔で話し始める。
「でもね。本当はすっごい優しくて、すること全部カッコよくてまだちょー好きなの。ダメだよねぇ」
それは俺も知ってる、あのたけるくんだ。
冷静にそう思ったのも一瞬の束の間、急に彼女のスイッチが入ってしまった。
「もうホント!沼って感じなの……!」
「……ぬ、沼?」
「知れば知るほど、どんどんはまってっちゃって、好きから抜け出せないの……!誰にでも優しいから、脈アリ?とか勘違いしちゃう子も多くて、あたしもそうだし……」
それからというもの、三十分くらいあいつの話をされて拍子抜けしていた。悪評高いのだろうなと思っていたのに全くの逆で、皆から好かれている風の話ばかりだった。
俺が知らないことはまだまだたくさんあるのだ。知ろうともしないのは、間違いだったかもしれない。それこそ一番見習いたくない兄貴と同じことをしている。
この出来事をきっかけに、今の久郷尊をちゃんと知りたい。そう思い始めていた。しかしそんな事をずっと考えていたら、兄貴にパソコンを渡し忘れて怒られるし、本当に最近はついてない事ばかりで参ってしまう。とりあえず、今日のことはちゃんと謝ろうと心を決めた。いつ会えるかは、分からないけど。
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