奇行

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パニックになっていたとはいえ、急にビンタするのはさすがにやりすぎだった。心の底から後悔しているけど、しばらく久郷と顔を合わせていない。 そもそも会おうとしてもなかなか会えない。 最近は家にも来ないし、俺を嫌いになったのだと思うと胸が痛かった。でも、全部俺が悪いのに謝れないでいるのは、どうしても嫌だった。 だから俺は、現在進行形で久郷の後をつけている。 どうしてそんなことになってしまったのかというと、まず家に来ないなら俺が行くしかないと思ったから。大学の周辺を無意味に散歩したり、頻繁に兄貴に久郷の様子を聞いたりしていたが、なかなか会えないでいた。 結局、強硬手段として兄貴から聞き出した久郷のバイト先に張って、出てきたところで偶然を装って話しかける。この作戦でいこうと思っていたけど、姿を見かけても緊張して声をかけられない。後をついて行って隙を着く作戦も考えているけど、結局何も出来ず、家まで後をつけるだけになってしまっている。これをかれこれ一週間くらい繰り返している。 さすがに、ただのストーカー。 でも久郷はバイト先の店から出てくる時、絶対誰かといるし、家までの帰り道は一人だけど裏道を通って行くから自然を装うには人がいなすぎる。この辺の道は最近不審者が多いらしいし、絶対通らない方がいいのになんでわざわざ通る。そう思ったけど、後をつけている時点で自分も不審者な気がしてきた。 「ちょっと君」 後ろからそう声をかけられ、警察かと思って心臓が止まりそうになった。 振り返るとおじさんが一人。 警察じゃなくてよかったとひとまずは安心した。 話を聞くとこの辺りの公園を探していたら道に迷ってしまったらしい。この辺は入り組んでいるし、おじさんは携帯のマップとか使えなそうだと思って調べてあげるとついでに案内も頼まれ、頼りにされてちょっと嬉しくなった俺は、連れて行ってあげることにした。 「いやぁホントに助かるよ。若い子はおじさんに親切にしてくれないんだ」 「いえ。気にしないでください」 おじさんも俺と同じでなかなか話しかけられずにいたのかなと思ったらなんだか可哀想。知らない人だし、興味なかったから特に深く考えずに歩いていると目的の公園についた。御礼がしたいからと言われ、されるがままベンチに座ると、謎に肩を揉まれ始めた。 「なんですか……?」 するといきなり後ろから抱きしめられ、驚いて固まってしまう。
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