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久郷の家に着くと、飲み物がないと買いに行ってしまった。飲み物なんてわざわざ出してもらわなくてもいいのに、やっぱ優しい。
俺はというと本人がいないのをいいことに、部屋を詮索してしまっている。冷蔵庫にお酒ばかり入っていて、この家に兄貴みたいなガラの悪い友達を連れてくるのかと思い少し不信感を持ったが、昔のままのあのたけるくんだと思うところもあった。そこまで多くはないけど色々な本が棚に並んでいるのを見て、昔のことを思い出す。
昔、俺とたけるくんを繋いでいたのは本だから。だからこそもしまだ本が好きだったら俺はただ本当に、本当に嬉しい。感傷に浸っていたら、玄関の開く音がして慌てて戻った。
「何。やましいことでもしてた?」
「す、するわけないだろ。兄貴じゃないんだし」
「そうだ。あいつどうにかして。無断で人の家に女子連れ込むんだけど」
「知らない。あの男は誰にも止められない。この前だって俺いるのに目の前で女の人と、き。キス……して。人のことからかって楽しんでるんだ」
過剰に反応する俺も悪いんだろうけど、間近で見るのは俺には刺激が強すぎる。
「キスか」
「な、なんだよ。それがどうしたって?」
「口に出すのもはずいの?」
「そ、そういうわけじゃ……ていうかそんなことどうでもいいだろ!」
「いや。そういえば俺らもキスしたことあったなって思って」
「そ。それ……なんで覚えてっ……!」
あれは思い出すのも恥ずかしい。
たけるくんにべったりだった餓鬼の頃の俺は本当に阿呆で本の中で出てきた恋人達に憧れて、一度だけたけるくんにキスしてしまったのだ。
そんなこと付き合って、愛し合っているからできることなのに小さい頃はそれが好きな人に、大好きだと気持ちを伝える方法だと思っていたこと自体(別に間違っては無い)、恥ずかしくて仕方ない。焦る俺をじっと見てから、少し視線を逸らして口を開いた。
「まぁ……印象に残ってる」
「なんかはぐらかした!?」
「そんな大したことじゃない」
「さっさと言え!」
いや、やっぱり言ってほしくない!
気持ち悪いとか言われたら生きていけない!
「口元がクソ好みだから。覚えてた」
そう言われ、ほっとするのと同時に口元に意識がいく。好みとかそんな風に思っていたなんて考えもしなかったから、動揺を隠せない。
「……な、んだ。それは」
「聞いといて文句あんの?」
涼しい顔でそんなことを言う久郷に若干腹が立った。俺はこんなにびっくりして、しかも恥ずかしいに暢気すぎる。でもそんな冷静なところもかっこよく感じて、逆に反発してしまう。
「そもそも口だけかよ。どうせ今だって口しか見てないんだろ!変態!」
「何にキレてんだよ。今も口だけじゃねぇわ、顔面諸々好みだって」
「俺の顔が好みだったら兄貴の顔も好みだろ……」
「それまじやめてほしい。周りは似てるって言うけど俺は思ってない」
「……俺はどうせ地味顔だ」
「あーあ。めんどくせぇ餓鬼」
口では反発していても、俺のことを覚えていてくれたこと、変なことをしていても気持ち悪いとか思わないでくれたことが嬉しくて、何を話していてもなぜかとても幸せな気分になる。今の久郷尊に、少しだけ昔のままのたけるくんを感じて心が温かくなった。
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