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12.僕の絶望
──おっさんに? ……やられる?
時間が止まったように視界が真っ白になり、産毛が逆立つのを感じた。
氷ついたと錯覚するくらい体が冷たい。
血の気の引いた頭の中は情報を処理しようと急速に回転し、頭の先から爪先まで脈打つような鼓動を感じる。
「なぁ。おまえもいい思いさせてもらったりした?」
にやけ面をした坊主頭がポンと僕の肩を叩いた。
「キャ────!!」
甲高い女子の声が頭に届く。
我に返ると、自分が拳を振り上げていることに気づき唖然とした。
自分が跨っているものに視線を落とすと、坊主頭の顔面は見る影なく血に染まっていて、僕の下でぐったりとしていた。
サイレンとともに学校に救急車が到着し、坊主頭は運ばれていった。
後から聞いた話によると、僕は坊主頭に殴りかかり、引き剥がそうとするクラスメイトを振り切って、倒れた彼に拳を振り下ろし続けたらしい。
クラスメイトから僕は平和主義な男だと思われていたし、自分でもそう思っていたので隠れていた自分の暴力性に寒気がした。
救いだったのは、坊主頭は血まみれで意識を失っていたが、怪我は軽症で後遺症ともなかったことだ。
僕が起こしたの暴力行為は学校や相手の親、うちの母を巻き込み大問題になったが僕はひたすら頭を下げ続けるしかなかった。
自分がどう謝ったか、どうカタが付いたかは記憶が曖昧だ。
その後、周囲からはキレたらヤバいやつと認定され、友人たちとは疎遠になったり、大学の推薦が取り消され受験勉強の巻き返しで苦労することになったが、自業自得なので不満はない。
ただその日から僕の世界は変わってしまった。
世界に幸せは溢れておらず、美しくもない。
僕が知らなかっただけで醜いものや汚いものが世界に溢れていることを理解した。
彼女の側にいたのに、彼女の苦しみも知らずに、呑気に幸せさえ感じていた自分が腹ただしくて憎らしくて仕方なかった。
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