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幸福な期待が高まる──はずだった。
しかし、体を硬直させ瞳を閉じた状態があの時とぴったりと重なり、私から思い出したくない情景を無理やり引きずり出した。
それは臭いすら感じるリアルさで私に襲いかかり、条件反射のように心臓は脈打ち、全身に震えを起こさせた。
上手く息が吸えない。
「……りっちゃん! りっちゃん!」
目を開けると、涙を浮かべた樹くんがいた。
「ごめんね……。お願いだから無理をしないで……」
樹くんは私を膝の上に横抱きにかかえ、包みこむように抱きしめた。
──無理? 好きな人に触れてもらう、そんなことすら、私にはできないなんて。
「……ごめんなさい。樹くんに触れて欲しいのは嘘じゃないの……樹くんの欲しいもの全部あげたかったのに……」
それだけは正直に言える。
「──りっちゃんのことが好きだ! 大好きだ……」
私も……って言えたらどんなにいいだろう。樹くんの欲しいものが体だけなら良かったのに。
樹くんが愛しくてどうしようもない。
でもそれは言えない。
彼を騙したくない。
私はもう樹くんが知っていた女の子じゃないことを伝えなければ……。
たとえ嫌われたとしても。
「ごめんね……。私、樹くんの気持には応えられない。私は樹くんに思ってもらえるような女の子じゃない。……私が男の人が苦手なのは昔、乱暴されたからなの……」
言わなくても、怯える私を見ていたら、もうわかっているかもしれない。
「でもそれが理由じゃない……」
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