28.本当の私

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 幸福な期待が高まる──はずだった。  しかし、体を硬直させ瞳を閉じた状態があの時とぴったりと重なり、私から思い出したくない情景を無理やり引きずり出した。    それは臭いすら感じるリアルさで私に襲いかかり、条件反射のように心臓は脈打ち、全身に震えを起こさせた。    上手く息が吸えない。       「……りっちゃん! りっちゃん!」    目を開けると、涙を浮かべた樹くんがいた。   「ごめんね……。お願いだから無理をしないで……」    樹くんは私を膝の上に横抱きにかかえ、包みこむように抱きしめた。      ──無理? 好きな人に触れてもらう、そんなことすら、私にはできないなんて。   「……ごめんなさい。樹くんに触れて欲しいのは嘘じゃないの……樹くんの欲しいもの全部あげたかったのに……」    それだけは正直に言える。   「──りっちゃんのことが好きだ! 大好きだ……」    私も……って言えたらどんなにいいだろう。樹くんの欲しいものが体だけなら良かったのに。    樹くんが愛しくてどうしようもない。  でもそれは言えない。    彼を騙したくない。  私はもう樹くんが知っていた女の子じゃないことを伝えなければ……。  たとえ嫌われたとしても。   「ごめんね……。私、樹くんの気持には応えられない。私は樹くんに思ってもらえるような女の子じゃない。……私が男の人が苦手なのは昔、乱暴されたからなの……」    言わなくても、怯える私を見ていたら、もうわかっているかもしれない。 「でもそれが理由じゃない……」  
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