1.僕と彼女の出会い

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 ── 小学四年、10才のクリスマスイブ。  ケーキを持った親子連れの横を、僕はランドセルをリズミカルに鳴らし通り過ぎた。  玄関から駆け足で家に入ると、静まった部屋のテーブルには一枚の手紙。    ──(いつき)へ   ごめんね。今日も仕事で遅くなりそう。冷蔵庫に夕飯あるから温めて食べてね。  欲しがってたプレゼント届くからね!   メリークリスマス ママより──  冷蔵庫を開くと、一人では食べ切れない大きいケーキと、いつもより豪華なご飯がひとり分入っていた。  ふと、ママはどこでご飯を食べるのかな……と思ったけれど、いつも僕が眠ったころに帰って来るのでよくわからない。  窓辺のクリスマスツリーには色とりどりの装飾が施されている。  ツリーのライトが点滅しても、窓から差し込む夕日がそれを覆い隠す。  光ったって誰にも見えないのに。 「無意味だ。バカみたい……」  溜息をつくと、インターホンが鳴った。 「お届け物です。ねえ僕? お母さんいるかな?」 「ハンコならあります」  忙しそうな宅配便のお兄さんが差し出す紙に、ハンコを押し荷物を受け取る。  段ボールを開けると、そこには入手困難の話題のゲーム機と、人気のタイトルがいくつか並んでいた。  ──欲しかったはずなのに、嬉しいはずなのに、駄々っ子みたいに癇癪を起こして地団駄を踏みたくなる。  遊ぶ気にもならなくて、とりあえずテレビを付けると、楽しそうな家族の映像がクリスマスソングとともに流れ出した。  目の奥がグッと熱くなって、僕はテレビの電源を切ると家を飛び出した。  公園に行けば、ひとりくらい暇な誰かがいるだろうと期待して。  しかし当ては外れ、いつもは奪い合うように遊具に群がる子ども達も、クリスマスは暇ではないのだろう。誰の姿も見えなかった。
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