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雪は降っていないけど、冬の匂いが鼻に刺さる寒い日だった。
葉の抜け落ちた桜の横のベンチで、僕は一人、どんよりと暗くなっていく空を眺めていた。
うちにはパパがいないから、ママはふたり分がんばっている。
ママはいつも疲れてクタクタだ。
だからワガママを言ってママを困らせるのはダメだ。
だけど……だけど……
さっきは我慢できた涙がポロポロと流れ落ちた……。
「……お兄ちゃんも泣いてるの?」
顔を上げると女の子が僕を不思議そうに見ていた。
「泣いてなんかいないよ!」
僕よりも年下の、小さなやせっぽっちの女の子。
そんな子にこんな姿を見られるなんて恥ずかしくって、かっこ悪くて、つい大きな声で嘘をついてしまった。
「……でも私とおそろい……ひとりぼっち」
「僕はひとりぼっちじゃない」
「──ひとりぼっちじゃないのに、ここに来てくれたの?」
パッと花が咲いたみたいに女の子の顔に笑みが広がる。
彼女は静かに僕の隣に座った。
「別に君のためじゃないよ……」
そっけなく言ってしまったけれど、なぜか悪い気はしなかった。
「今日はねクリスマスなんだって……ケーキを食べてプレゼントをもらえる日なんでしょう? お兄ちゃん、もうケーキ食べた?」
「……ケーキはまだ食べてない。プレゼントは……もらった」
「そっかぁ。私もね、ケーキ食べてないんだよ。プレゼントは……」
女の子は少しだけ考える素振りをしてから言葉を続ける。
「お家にいたらダメだから公園に来たんだけど、誰も居なくてガッカリしたの。だから……誰かここに来て下さいって──神様? サンタさん? にお願いしたんだよ……」
ふふっ……と喜びがこみ上がったように女の子は笑う。
「──私もプレゼントもらえちゃった……」
そうつぶやくと女の子は、何か素晴らしいものでも見るみたいに、キラキラした瞳で僕を見つめた。
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