13.あの日の僕

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 彼女に起きた出来事を知ってから、僕にとって男の性欲は嫌悪でしかなかった。  彼女を傷つけた男と同じように、勃起し射精する自分も憎悪の対象だった。  しかし今までどんなことをしても反応をしなかったものが、彼女の愛撫で突然機能を取り戻す。  気持ちが良ければ良いほど、君がされたであろうことが頭を掠める。    彼女に汚い欲望を見せたくない。  どうしようもないくらい恥ずかしくて、彼女に申し訳なくて、情けなくて、だけど気持ちがいい。  愛撫を受ける間、頭の中はずっとぐちゃぐちゃだった。  彼女は僕を射精させたがった。  単に情けなく悶える僕が面白かったのだろう。  彼女の嗜虐心が満たされるならいくらでも痴態を晒す。  でも、僕だけは彼女を性欲のはけ口にしたくなかった。  僕にとって彼女は何より神聖で、世界で一番尊い人だから。  絶対に(けが)したくない。  間違いなくそう確信しているのに、勃起し初めて(しご)かれる快感に、それも思い焦がれた彼女にされていることに、とてつもない興奮と喜びを感じている自分がいた。  穢したくない、我慢できない、焦らされる度自分を取り戻す、その繰り返し。  縛られていなかったら、襲いかかって彼女を貪っていたかもしれない。そのくらい、耐えがたい衝動だった。  しかし突然、彼女は焦らすことをやめる。  刺激の合間にかろうじて自分を取り戻していた僕は、欲望に飲み込まれる。  僕の中の彼女は綺麗なまま。  ただ僕が卑しく下劣に落ちぶれただけ。  そう言い訳をして、あっけなく僕は射精した。  ──でもその甲斐はあった。  再開してから初めて、あの頃のようにふんわり笑う君に会えたんだから。  そのためなら、いくらだって付き合う。  どんな姿だって見せるし、何をされたっていい。  僕を玩具だと思っていいし、サンドバッグみたいに扱ってもいいよ。  お願い僕を必要として。  君の心が晴れるならなんだってするから。  
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