28.本当の私

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 樹くんは私よりも、つらそうな表情で黙って私の話に耳を傾ける。   「私……乱暴されたのに…………感じてたの……」    樹くんの顔が見られない。  でもそれが本当の私。     「私、最低なの。拒絶してるふりをして、受け入れたの。感じて、濡らして、声まで上げて……。自分でも自分が気持ち悪くてしょうがない……。自分で自分を許せない。樹くんに私の全部をあげたいけど……腐りきっていて心はあげられないの……もう樹くんが好きな私はいないの……」    こんな私を受け入れてもらえるなんて思えない。      大切な記憶を思い出し、樹くんから一時でも大好きとさえ言ってもらえた。    この思い出があれば、私は充分幸せだ。    自分を納得させ、樹くんの膝から抜け出そうと体を動かすと、彼は私の腕を取り力強く引き戻した。   「全部わかった上で、それでもりっちゃんが大好きなんだ……」      知られたら絶対に軽蔑されると思っていた。なのに、樹くんは変わらず愛情を伝えてくれる。  予想もしていなかったことに喜びよりも戸惑いが広がる。   「……でも」 「君がいいんだ……。君だけしかいらないんだ……どんな君でもいいんだ……」  樹くんの声は震えていた。   「樹くん……」 「りっちゃんは悪くない。心なんて腐ってない! 本当に受け入れてたら今も男が怖いはずないだろ!」    快感を覚えた自分が悪いと思っていた。力で敵わなくても、それだけは抵抗できる気がしたから。   「そう思ってくれるの?」   「当たり前だろ! ……りっちゃんが快感を感じたのは……体が反応したのは、ただ体を傷つけないための防衛反応だよ!」  樹くんの手が私の頬に触れる。 「……ねぇ、自惚れでないなら、りっちゃんも僕のことを好きだって思ってもいいの?」    樹くんが思う以上に私は樹くんが好きだ。何度も大きくうなづき肯定する。   「大好き……。私、樹くんが大好きなの」  樹くんの抱きしめる手に力が入る。   「──夢みたいだ。りっちゃんのこと本当にずっとずっと大好きだったんだ……」    もう私に隠し事はない。  ようやく樹くんの言葉を戸惑いもなく受け止められる。  嬉しくて涙がこぼれると、樹くんは目元にキスをして涙を吸い取った。   「しょっぱい」  私達は顔を見合わせてクスっと笑った。   「あのね、さっき言ってたことだけど……本当に受け入れてたら、心も気持ちいいと感じるんじゃないかな?」    心なんて全然気持ちよくなかった。    今も思い出したくないくらい、苦しさしか残っていない。   「……そうなの?」   「うん。りっちゃんが僕に教えてくれたんだよ。今度は僕が教えてあげる。一緒に確かめてみよう……だからもう自分を責めないで……」    樹くんは私の返事をを促すように、微笑んで小首を傾げた。     「うん、教えて……」  
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