最終話 空の色

1/2
前へ
/78ページ
次へ

最終話 空の色

 体に力の入らない私は、すっぽりと樹くんの腕の中にいる。 「りっちゃん、かわいい。すごくかわいい……僕だけが知ってる、僕だけの顔だ……」  かわいい。好きだよ、樹くんは繰り返し目元、鼻、頬……顔中の至る所にキスを落とす。 「樹くん……」  あの感覚から離れられなくなりそうで、心細くて樹くんにギュッと抱きつく。 「大丈夫? 僕、夢中で余裕なかったけど、無理させてない?」  樹くんは不安気に私の顔を覗き込む。 「全然大丈夫。本当に心も体も全部、すごく気持ち良かった。私が思ってたものとは全然違った……」  少し体を動かすと樹くんの手が、背筋をかすめた。それが残っていた感覚を刺激し、思わず仰け反り、小さく声が漏れる。  また、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。 「好き! ……好き……好きすぎる……」 「もう、樹くん! 何回言うのよ」  私たちは顔を見合わせて笑った。  私の髪を撫でながら樹くんは優しく語りかける。 「自分のこと許せそう? もう自分を責めたりしない?」 「ちゃんと分かったから。もう大丈夫。……樹くん、ありがとう」 「良かった……本当に、良かった……」   樹くんは心底嬉しそうに微笑んで、何度も抱きしめてくれた。  私は裸で樹くんは服を着たままだ。  だけど、今の彼の状態がわかった。 「……樹くんはツラくない?」 「え? い、いや全然。……なんで?」 「……当ってる」  樹くんは抱きしめていた私を慌てて離す。 「ごっ! ごめん! これは、そういうのじゃなく……いや、そうなんだけど。僕は大丈夫だから! 僕のことは気にしなくていいから!」  ここでも自分を後回しにして私のことを考えてくれる。  慌てふためく樹くんがかわいい。 「……私もいっぱい気持ちよくしてあげたい。樹くんの全部が知りたいの」 「え……」 「……はっきり言わなきゃわからない?」 「あ、あ、あ、あの……」  わからないはずがないのに、返事が返ってこない。勇気を出してはっきり告げる。 「一つになりたい。これ……欲しいの」  樹くんの脚の間の硬いものを、そっと擦った。  さっきまで、すごくいやらしいことをしていた人とは思えないほど、樹くんは真っ赤になって固まっている。  ここまで言っても何も反応がないことに、やっぱり私じゃ嫌なのかと不安になる。  それが表情にも出ていたのか樹くんは焦った様子で話しだした。 「したい! 僕もりっちゃんとすごくしたい。ものすごくしたい! だけど……あの……引かないで聞いてくれる?」  樹くんの全部を愛おしい私が、引くことなんてあり得ないのに。  樹くんの自信の無さに私は少し呆れながら「うん」と答えた。 「僕……ちゃんとしたこと……ないんだ」  聞き間違いかと耳を疑った。  樹くんの指や動きにぎこちなさなんてなかったし、比較もできないけれど、すごく良かったから。 「全然、そんな感じなかったけど……」 「……いや、あの……全くってわけじゃないんだけど、あの…………それなりに…………いや、その………………りっちゃん以外ダメで……」  語尾がどんどん小さくなって聞き取れない。理解できないと表情に出てしまう。 「だから……僕、ED……わかる? 勃起不全だったんだ! りっちゃんと再会して色々するまで全然ダメで……」  これ以上ないくらい赤面した樹くんは、そのままうつ向いて目を合わせないようにしている。  ──やっぱりかわいい。  そんなこと全然構わないのに。 「そんなこと気にしないのに」 「だって! この……」  それ以上話すのを私は唇で塞いだ。  樹くんが私に伝えてくれたように、私も樹くんの全てが大好きだって伝えたい。 「樹くん……好き、大好き」
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加