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最終話 空の色
体に力の入らない私は、すっぽりと樹くんの腕の中にいる。
「りっちゃん、かわいい。すごくかわいい……僕だけが知ってる、僕だけの顔だ……」
かわいい。好きだよ、樹くんは繰り返し目元、鼻、頬……顔中の至る所にキスを落とす。
「樹くん……」
あの感覚から離れられなくなりそうで、心細くて樹くんにギュッと抱きつく。
「大丈夫? 僕、夢中で余裕なかったけど、無理させてない?」
樹くんは不安気に私の顔を覗き込む。
「全然大丈夫。本当に心も体も全部、すごく気持ち良かった。私が思ってたものとは全然違った……」
少し体を動かすと樹くんの手が、背筋をかすめた。それが残っていた感覚を刺激し、思わず仰け反り、小さく声が漏れる。
また、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
「好き! ……好き……好きすぎる……」
「もう、樹くん! 何回言うのよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
私の髪を撫でながら樹くんは優しく語りかける。
「自分のこと許せそう? もう自分を責めたりしない?」
「ちゃんと分かったから。もう大丈夫。……樹くん、ありがとう」
「良かった……本当に、良かった……」
樹くんは心底嬉しそうに微笑んで、何度も抱きしめてくれた。
私は裸で樹くんは服を着たままだ。
だけど、今の彼の状態がわかった。
「……樹くんはツラくない?」
「え? い、いや全然。……なんで?」
「……当ってる」
樹くんは抱きしめていた私を慌てて離す。
「ごっ! ごめん! これは、そういうのじゃなく……いや、そうなんだけど。僕は大丈夫だから! 僕のことは気にしなくていいから!」
ここでも自分を後回しにして私のことを考えてくれる。
慌てふためく樹くんがかわいい。
「……私もいっぱい気持ちよくしてあげたい。樹くんの全部が知りたいの」
「え……」
「……はっきり言わなきゃわからない?」
「あ、あ、あ、あの……」
わからないはずがないのに、返事が返ってこない。勇気を出してはっきり告げる。
「一つになりたい。これ……欲しいの」
樹くんの脚の間の硬いものを、そっと擦った。
さっきまで、すごくいやらしいことをしていた人とは思えないほど、樹くんは真っ赤になって固まっている。
ここまで言っても何も反応がないことに、やっぱり私じゃ嫌なのかと不安になる。
それが表情にも出ていたのか樹くんは焦った様子で話しだした。
「したい! 僕もりっちゃんとすごくしたい。ものすごくしたい! だけど……あの……引かないで聞いてくれる?」
樹くんの全部を愛おしい私が、引くことなんてあり得ないのに。
樹くんの自信の無さに私は少し呆れながら「うん」と答えた。
「僕……ちゃんとしたこと……ないんだ」
聞き間違いかと耳を疑った。
樹くんの指や動きにぎこちなさなんてなかったし、比較もできないけれど、すごく良かったから。
「全然、そんな感じなかったけど……」
「……いや、あの……全くってわけじゃないんだけど、あの…………それなりに…………いや、その………………りっちゃん以外ダメで……」
語尾がどんどん小さくなって聞き取れない。理解できないと表情に出てしまう。
「だから……僕、ED……わかる? 勃起不全だったんだ! りっちゃんと再会して色々するまで全然ダメで……」
これ以上ないくらい赤面した樹くんは、そのままうつ向いて目を合わせないようにしている。
──やっぱりかわいい。
そんなこと全然構わないのに。
「そんなこと気にしないのに」
「だって! この……」
それ以上話すのを私は唇で塞いだ。
樹くんが私に伝えてくれたように、私も樹くんの全てが大好きだって伝えたい。
「樹くん……好き、大好き」
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