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「ねえ、しようよぉ」
さっきとは逆で今度は私が樹くんに抱きついて顔の至る所にキスをしている。
「ダメだよ! 僕、制御する自信ないから! ちゃんとしたいんだ。りっちゃんに負担がかかるんだから! 全部整えて、完璧な状態で、りっちゃんを抱きたい。あっ! ……これから色々準備しなくちゃ……」
ブツブツと樹くんは呟くと、思い詰めた顔で、ガバっと顔をあげた。
「りっちゃん!! 僕と結婚して!!」
……今言うこと?
樹くんは将来設計について語りだす。
「とりあえず!私は今、十分幸せだから。 まずえっちしよ!!」
「僕はりっちゃんを大事にしたいんだ! だからしない! 絶対しない!」
「えぇ……樹くん……」
樹くんは避妊具がないと絶対にダメだと宣言し、甘えたり、迫っても絶対に聞いてはくれなかった。
そして、どこかにぶつかりながら家を飛び出しコンビニまで出かけていった。
また今度、とはならなかったのは、やっぱりお互いしたかったからだ。
樹くんが戻っても、上手くできるとは限らない。
もしかしたら、私がまた思い出してできなくなるかもしれないし、いざとなると樹くんがダメになるかもしれない。
でも、しても、しなくてもどっちだっていい。
どっちだって私たちの気持ちは変わらないから。
そう思えることが、何よりも気持ちいいし、一番幸せだって思う。
窓の外を見ると、濃紺の空にオレンジの帯が広がっていく。
まだ姿を表さない太陽の光がゆっくりと空を染め、混じり合った色が淡い紫を作る。
──夜が明けていく。
見つけられなくても、世界はいつでも輝いていた。
これからも私は転び続けるだろう。
でもきっとなんとかなる。
目を凝らせば、きっと幸せはそばにあるんだ。
「早く帰ってこないかな」
樹くんが戻ったら、空の話をしよう。
私が見つけた、きれいな色を教えてあげるんだ。
完
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