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そして、そんなことを、考えると、あらためて、和子の目的を思った…
和子は、本当に、私を、甥の伸明の妻にしたいと、思っているのか?
甚だ、疑問だった…
なにしろ、私だ…
この寿綾乃だ…
矢代綾子だ…
たいした能力もない…
大学も出ていない…
高卒だ…
ただ、自分でいうのも、なんだが、周囲から、いつも、堂々としている…
頼れると、評判(苦笑)…
だから、もしかしたら、和子もまた、私を誤解しているのかも、しれない…
過大評価しているのかも、しれない…
その可能性はある…
その可能性は、否定できない…
ひとは、どうしても、見た目…
見た目=外見で、判断する…
いかに、東大や、京大を出ていようが、ひ弱そうだったり、頼りなさそうに見えると、評価は、低いものだ(笑)…
そして、仕事…
学生では、ないのだから、評価は、勉強ではなく、仕事になる…
仕事での評価となる…
そして、仕事が、自分に合わないと、大変なことになる…
ずばり、評価が、低くなる…
誰もが、得手不得手がある…
そして、学歴にかかわらず、なんでも、器用にこなす人間は意外にいるものだ…
要するに、物覚えが早く、手が早いのが一番…
一番、評価が高い…
いかに、東大や、京大を出ていても、トロトロと、作業が遅いと、
…あのひと、ホントに、東大を出たの?…
と、周囲の失笑を買うことになる…
だから、仕事が合うか否か?
あるいは、
職場が、自分に合うか否かが、大事…
勝負の決め手となる…
職場や仕事が合わなければ、自分の能力を発揮できないからだ…
ハッキリ言えば、会社ガチャ…
どこの会社に入るか、ある程度、自分で選ぶことは、できるが、仕事や同僚は、選ぶことが、できないからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…綾乃さんは、どうするの?…」
と、ナオキが、聞いてきた…
「…どうするって、なにをどうするの?…」
「…伸明さんのこと、どうするの?…」
「…どうするって、今さら…」
私は、言った…
言わざるを得なかった…
今さら、和子と伸明の元に、戻って、
…やっぱり、伸明さんと、結婚したいです!…
なんて、言えるはずが、ないからだ(苦笑)…
それに、なにより、それは、ナオキの思い込み…
ナオキが、一方的に、言っているに、過ぎない…
本当に、和子が、私を評価しているか、わからないからだ…
私は、むしろ、それより、ユリコの言葉の方が、信じられる…
ユリコが、言った、私を癌の治療のために、オーストラリアに行かせた真意…
癌の治療費を、五井が負担した真意…
アレは、私をナオキから、引き離すため…
ナオキの唯一の相談相手である、私をナオキから、引き離し、その間に、ナオキを説得して、ナオキから、株を譲り受ける…
そのためだ…
正直、私が、ナオキの身近にいれば、五井に株を譲るのは、待ったをかけたと、思う…
いや、
待ったをかけずとも、もっと、なんとか、ならないかと、いろいろ、模索したと、思う…
なにしろ、五井だ…
大企業だ…
株を譲ったり、提携をしたりすれば、いずれ、遅かれ早かれ、五井に飲み込まれるのは、わかっている…
言葉は、悪いが、過去の同じような例を見ても、ほぼ、例外なく、そうなっているものだからだ…
もし、飲み込まれないならば、それは、FK興産の業績が、回復不能なほど、悪い場合…
あるいは、業績や、さまざまな、会社の内部事情を知って、五井が、FK興産に、興味をなくした場合だろう…
が、
そもそも、五井が、FK興産に、手を差し伸べた時点で、五井は、勝算があると、判断したと、思うのが、賢明…
そうでなければ、五井ほどの大企業が、たかだが、従業員千人程度のFK興産に手を差し伸べは、しないだろう…
勝算=経営再建は、可能と判断したに、違いないからだ…
いや、
そうではない…
ここで、言いたいのは、そうではない…
そもそも、FK興産は、そんなに業績が悪かったのか?
それが、疑問だった…
少なくても、私が、FK興産で、社長のナオキの社長秘書として、身近に仕えていたときは、聞いたことのない話だった…
だから、
「…ナオキ…そんなことより、会社の業績…FK興産の業績…そんなに悪かったの?…」
と、聞いた…
遅ればせながら、聞いた…
ホントは、真っ先に、聞かなければ、ならないこと…
すっかり、忘れていた(苦笑)…
ナオキが、私が賭けに負けたとか、なんとか、わけのわからないことを、言っているから、すっかり、聞くのを、忘れていた…
すると、ナオキが、思いがけず、
「…綾乃さんが、いけないんだ…」
と、ぼやいた…
「…どうして、私が、いけないの?…」
「…綾乃さんが、いなくなってから、正直、会社の経営に情熱が、なくなった…」
「…エッ?…」
「…なにより、いろいろ、ありすぎた…ジュンが、僕の子供でないことも、驚いたし、そのジュンが、綾乃さんを、クルマで、ひき殺そうとして、逮捕されたのには、もっと、驚いた…」
「…」
「…でも、それまでは、綾乃さんは、ボクの身近にいた…だから、相談といっては、おおげさだけれども、綾乃さんが、身近にいることで、ボクは、安心できた…」
「…」
「…だから、おおげさに、言えば、綾乃さんは、ボクにとって、精神安定剤のような存在だった…その綾乃さんが、いなくなって…」
後は、言わずとも、わかった…
が、
これを、聞いて、私は、正直、嬉しかった…
まさか、それほど、ナオキが、私を頼りにしているとは、思わなかったからだ…
だから、嬉しかった…
でも、そんなナオキが、自分ではなくて、伸明を選べ、だなんて、一体、どう思っているんだろ?
この私のことを、どう思っているんだろ?
聞いてみたくなった…
ぜひ、聞いてみたくなった…
だから、
「…ナオキ…アナタ…一体、私のことを、どう思っているの?…」
「…なに? …綾乃さん? …どうして、そんなことを、聞くの?…」
「…だって、そうでしょ? …たった今、私のことを、精神安定剤のような存在だと、言ったそばから、真逆に、伸明さんと、結婚すれば、いいなんて、矛盾しているでしょ?…」
「…いや、矛盾は、していない…」
「…どうして、矛盾していないの?…」
「…それは、家族だから…」
「…家族?…」
「…ボクと、綾乃さんは、もうずっと、家族だった…十年以上、家族だった…ボクは、夫、綾乃さんは、妻…そして、ジュンの母親…同時に、ボクにとって、頼れる姉でもあり、頼れる妹でもあった…」
「…」
「…だから、そんな家族が、誰と恋しようが、応援する…そんなスタンスに代わってきた…」
「…でも、私が、もし、伸明さんと結婚すれば、私は、もう、ナオキ…アナタとは…」
「…バカだな、綾乃さん…」
ナオキが、笑った…
「…なにが、バカなの?…」
「…綾乃さんが、誰と結婚しようが、ボクと綾乃さんが、家族であることは、変わらない…」
「…ウソ?…」
「…ウソじゃない? …これまで、ボクが、一度でも、綾乃さんに、ウソをついたことある?…」
私は、ナオキが、真面目な顔で、そんなことを、言うものだから、思わず、吹き出しそうになった…
「…そんなこと、言うと、まるで、今まで、一度も、私にウソをついたことが、ないみたいじゃない…」
「…そうだよ…」
「…ウソ…今まで、何度、私の目を盗んで、女の元に、通ったと思っているの…」
「…それは…」
「…それは、なに?…」
私が、言うと、ナオキは、いきなり、私のカラダを抱きしめて、私に、キスをした…
なにより、私とナオキは、玄関に立ったまま…
まだ、自宅に上がってもいない…
二人とも、玄関に立ったまま、ずっと、話をしていた…
外では、できなかったからだ…
だから、マンションの自室に入った途端、安心して、話し出した…
それが、思いのほか、長話になっていたということだ…
気が付くと、いつのまにか、ナオキは、サングラスを外していた…
やはり、キスをするときは、相手の顔が見えなければ、嫌…
なぜなら、安心できないから…
まさか、誰か、別の男と入れ替わっているとは、思いもしないが、それでも、顔が、見えなければ、安心できない…
おまけに、ナオキは、イケメン…
イケメンの顔を見ながら、キスをするのは、悪くない(苦笑)…
それは、ちょうど、男でいえば、美人を見ながら、酒を飲むようなもの…
いや、
女もまた、同じか(苦笑)…
イケメンを見ながら、酒を飲むのは、最高…
まるで、芸術品を見ているような気持になれるからだ…
そして、私は、ナオキから、唇を離すと、
「…ナオキ…アナタ…」
と、言った…
「…なに、綾乃さん?…」
「…ズルい…私に、これ以上、しゃべらせないために、私の唇をふさいだでしょ?…」
「…ご名答…」
「…それに…」
「…それに、なに?…」
「…キスをする前にサングラスを外したのは、なぜ?…」
「…綾乃さんの好みを知っているから…」
ナオキが、笑った…
「…私の好みって、一体?…」
「…イケメン好き…」
「…なんですって?…」
「…おまけに、背の高い男が好き…」
「…ナオキ…もしかしたら、それは、自分のことを、言っているんじゃないでしょうね?…」
「…わかった…さすが、綾乃さん…」
ナオキが、笑った…
「…でも、ボクの代わりに、諏訪野さんでも同じ…変わらない…」
「…なにが、変わらないの?…」
「…諏訪野さんも、イケメンで、背が高い…だから、ボクと同じ…綾乃さんの好みのタイプ…」
これには、
「…」
と、絶句した…
一瞬、言葉が、出てこなかった…
が、
すぐに、
「…わかった…だから、ナオキ…アナタ、今、サングラスを外したんでしょ?…」
「…どういう意味?…」
「…サングラスをしたまま、私とキスをすると、もしかして、私が、伸明さんと、キスをしていると、勘違いすると、思ったんでしょ?…」
「…綾乃さん…なにを言っているの?…」
「…自分が、伸明さんの代わりだと、思われるのが、嫌なんでしょ?…」
私の言葉に、今度は、ナオキが、絶句した…
「…」
と、言葉が、出てこなかった…
それから、
「…プッ!…」
と、吹き出した…
「…なに? …なにが、おかしいの?…」
「…負けず嫌い…」
「…なに、いきなり…」
「…ボクが、こう言えば、ああ返す…とにかく、やり返さなければ、気が済まない…」
「…」
「…もっとも、そんな気の強い綾乃さんだから、五井の女帝に気に入られたのかな…」
「…どういう意味?…」
「…彼女も気が強い…だから、好きになった…」
「…」
「…きっと、若い時の自分を、見ているんだと、思う…」
「…どういう意味?…」
「…彼女も、美人だろ?…」
この言葉には、呆れた…
まさか、自分の母親と同年代の女性を値踏みするとは、思わなかったからだ…
「…ナオキ…アナタ、生粋の女好きね…」
「…男は、皆、そうさ…」
「…ホント?…」
「…ホントさ…」
そう言って、また、私にキスをした…
「…美人が好き…」
私から、唇を離すと、言った…
「…美人が、好き?…」
「…綾乃さんが、イケメンが好きなように…」
そう、言って、また、キスをした…
なんだか、珍しく、ナオキに主導権を握られた…
そんな日だった…
そして、そんな日があってもいいと、思った…
私にとって、レアな日…
レア=希少な日だったが、そんな日があっても、いいと、思った…
負けず嫌いな私にとって、実に、貴重な日だった(苦笑)…
<続く>
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