ふつうの子

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ふつうの子

とくに変わったこともない、普通の女の子だった。結婚してから、長いあいだ子供が授からなかった僕たち夫婦には、それでも特別な子供だ。 まだ言葉もしゃべれない頃は、ただ無邪気に泣き、笑った。僕らはそれが愛おしくて、ふたりでずっとその赤ん坊の顔を眺めたっけ…。 「ほら美優樹、パパに行ってらっしゃいしてー」 美優樹はぼくら夫婦二人でつけたこの子の名前だ。美しく、優しい、そしてのびのびと育つように願った名前だ。 「行って来るよー」 そうして見送られながら家のドアを開けて仕事に出かける瞬間が、僕にはとても辛いことだった。だって娘の顔が、声が聞けなくなるんだから。今日も早く帰ろう。残業なんてお断りだ。出世なんかどうでもいい。ぼくは娘の顔さえ見ていられれば、それで幸せなんだ。妻には悪いけど。
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