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きぼうの子
アイドルになりたいと、美優樹は言った。その美貌、スタイル、どれをとってもこれ以上のアイドルはいないだろうし出もしないだろう。なんたってその歌声は…天使にも、悪魔にもなるんだからね。きっと世界中の人間が美優樹のファンになるだろう。そうして美優樹のライバルも、少しずついなくなる。
やがてこの世は美優樹のものになる。それはわかりきっていた。美優樹の秘密を知っている僕ら以外、それをどうにかできる者なんていない。だから僕らは見届けようと、そう誓ったんだ。
「ねえパパ、ママ。あたしアイドルになりたい」
「ああ、おまえならきっとなれるさ」
「あなたなら絶対なれるわよ」
「うれしい。ふたりともぜったい反対すると思ってた」
「そんなことないよ。僕たちはもう美優樹のファンだからね」
「わたしもよ美優樹」
「ありがとうパパ、ママ。お礼にあたし歌うね。ふたりに向かって歌うことはしなかったけど、歌うことであたしに希望がわいてくる気がするの」
「あー、ちょっと待って…それってもしかしてヤバいやつ?」
「あなた…あきらめましょうよ。これで美優樹の邪魔になるものがいなくなるのよ」
「いやそういわれても」
「いい?聞いてね」
美優樹の声が光に見えた。さあ、それはどんな声なのか…。僕ら夫婦はその声に耳を澄ませた。ほんとうに心に染み入るような、まるでそう、天国にいるような、そんな声だった…。
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