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あそぶ子
美優樹が遊ぶとき、ハミングするようになった。もちろん歌詞はないけれど、それはそれは美しい音だった。ちゃんと口を開き、声を出して歌ったら、どんなに素敵だろうと僕も妻もそう言った。
「まだ言葉もあまりしゃべれないのよ?仕方ないじゃない。でも不思議…なんだかこの子の声を聞いていると、とても幸せな気分になるのよね」
「いや、だってそれは当たり前じゃないか。ぼくらふたりの子供なんだから」
妻は少し不思議そうな顔をした。
「それはそうだけどさ、でもね、わたしが頭痛とか生理痛とかそれこそしんどいときに、美優樹のハミングを聞くと、すっかり楽になるのよ」
「それは娘の声の癒しだね。うらやましいなあ」
「ふふふ、あなたが寝ているとき、ときどき寝苦しそうにするあなたに、美優樹はいつもあなたのとなりでハミングしてるのよ。そうするとあなた、すっごい幸せそうな顔になって、大きないびきをかきはじめるの。わたし、いつも笑っちゃってるの」
「おい」
それは何てむごい話だ。僕が寝てるときだけ、そんな至福の時間が与えられてるなんて…ずるい!ぼくはもう眠らないと、そう決めた。まあそれはすぐに破られたけど。
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