わらう子

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

わらう子

幼稚園に通うようになった。毎日、園バスに乗り込むのを見送るのが僕ら夫婦の日課になった。僕らで送り迎えしたかったんだけど、みんなと同じようにしなきゃって言う妻の言葉に負けた。 保育園とちがって幼稚園はいろいろな催しがあった。遠足、ファミリー参観、夏祭り、運動会、そしておゆうぎ会。どれも親ならワクワクするイベントだ。もう僕らの家じゅう、そんな写真がいちめんに飾られ、僕らはとっても幸せだった。 「それにしても、美優樹が写ってる写真って、みんな笑った顔ね」 妻が可笑しそうにそう言った。美優樹だって普通の子だ。泣いたり怒ったりする。駄々をこねていやいやする姿なんか可愛ったりゃありゃしない。だが、そんな美優樹の写真は一枚もない。みんな笑っている顔なのだ。 「この子はもしかしたらアイドルになる素質を持ってるのかもね」 ある日妻はとんでもないことを言った。冗談じゃない。美優樹は僕ら夫婦二人だけの娘だ。アイドルのように他人に振りまく笑顔なんて、すっごく嫌だ。だが幼稚園での生活は、美優樹の才能をほっといてはくれなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加