みつめる子

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

みつめる子

それはおゆうぎ会でのことだ。みなと一緒に美優樹が歌う。合唱だ。 かえるのうたが きこえてくるよ(かえるのうたが) 輪唱とも言われるそれは、園児たちの可愛らしい声が重なり、ものすごく幸せな気分になれる。とくに娘が歌うと、それは圧倒的に気分が高揚するのがわかる。妻が言った、アイドルの素質ってやつかも知れないが、だけどぼくは娘をアイドルになんか絶対するもんか。 「いやあ、それにしても美優樹ちゃんの歌声はとても素晴らしいですね」 幼稚園の先生たちからも、園児たちのお母さんやお父さんたちからもそう言われて、僕と妻はちょっといい気分だった。ほらね、っていう顔を妻はしてるけど、僕は絶対認めませんからね。 「でも美優樹ちゃんはおふたりをじっと見つめて歌っていました。ほかの子たちは照れたりはにかんだり、キョロキョロしていた子もいましたが、美優樹ちゃんだけは、ただおふたりのためだけに歌ってるようでしたね」 それはすごくうれしかった。でもそのとき、僕は何か不安な気持ちにもなったんだ。だってやがて美優樹は大きくなって、大人になっていくのに、そんなことでいいのだろうかと。もっと他の人も、まだ考えたくはないけど、恋人なんかもできる日もくるだろうに、そんなことじゃいけないんじゃないかって。 「考えすぎよ」 と妻は言ったけど、本当にそうだろうか?
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加