ゆめみる子

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ゆめみる子

ハチドリ(ハミングバード)という鳥を知っているだろうか? アメリカ全土やカリブ海にかけて生息する小型の鳥だ。ブンブンと羽音をたて飛ぶ可愛い姿は、誰の目にも優しく映る。食性は花の蜜などで、ほかに虫などを捕食する種類もある。 「アオノドハチドリというのを知っているか?」 「知らないわそんなの。そんな鳥なんかよりもっとだいじな…」 「よく聞いて。アオノドハチドリは虫を食べる。虫を捕食するとき、彼らは鳴くという。すると虫たちは気を失い、彼らの餌になる」 「だからそれがどうしたって言うの?」 僕は一呼吸置いた。これから話すことはたしかに仮定であって実際に確かめたわけではない。だからこそその事実を知らなければならない。 「アオノドハチドリの発する鳴き声は、おおよそ最大で30キロヘルツ。一般に、超音波という部類に入る」 「意味が分からないわ」 「これは確証じゃないけど、美優樹はもしかして音波を操れるんじゃないかと思う」 「なにそれ」 「人間にとって心地いい周波数、不快な周波数がある。美優樹はそれをコントロールできるんだろう。そして20キロヘルツ以上の周波数帯を超音波って言うんだ。そしてここが肝心だ。強い超音波は人体に影響を与える。担任の先生が脳の側頭葉から出血して亡くなったって聞いたよね。そこはさ、聴覚をつかさどる脳なんだ」 妻は驚いたようにぼくを見た。 「じゃあ、美優樹は先生を歌で殺した、と?歌を聞かせて殺したって?」 「きっとあの子はそれができるんだろう」 「どうするの?そんなことが世間に知れたら、あの子の人生は?」 「そんなの決まってるだろ」 そうだ。決まっている。僕らが黙っていればいいだけだ。あの子が何をしようが、僕らは黙っていればいい。それが美優樹もぼくらも、一番幸せなことだ。 そうして僕らは、そう決めた。だって美優樹はまだこれからの人生を、もっともっと楽しく過ごしてもらわなけりゃ。美優樹に未来いっぱいの夢を与えなくちゃ。
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