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過去の楔
通された先は、ケーニッヒスフォートの郊外の、無人のオフィスだった。
「こちらへ。お姉様」
まだか。まだこんなことを、こいつ等は。
南の大陸の、暗殺者一族。
ヤスパー・フェルナンドを頂点とした、忍びの一族。
ヤスパー。かつての、マスター。
それは、リーゼロッテが、まだ8歳の頃の話だった。
房中術の基本は、房中において、対象を昇天させるが要訣。
そこで、リーゼロッテは、8歳にして、師に身を開いたのだった。
まだ、初潮すら迎えていない年頃から、一族の娘は、床の上で人を殺傷する術を学んでいた。
よい蜜壺ではある。初潮が来れば、もう訓練は行えん。あとは、ココリに学べ。
無言で頷いたのは、妊娠中期の暗殺者、ココリ・フェルナンドだった。
リーゼロッテは、既にヤスパーの、オスの匂いに惹かれていた。
8歳の娘であっても、男を慕う心に嘘はなかった。
絶え間ない熱情を胸に秘めたまま、リーゼロッテは暗殺者として生きてきたが、その心を変えたのはは、耳をつんざくような、銃弾のマズルフラッシュと、言葉もなく死に絶えた、ヤスパーの骸だった。
その後、残ったフェルナンド兄弟は、あの卑劣漢達は、銃火をもってアカデミーに侵攻し、殆どが死んだ。
待っていた男は、目をキラキラさせて、リーゼロッテを抱きしめた。
「ああ!姉上!俺の姉上!」
「まさか、今頃になって、哀れな子」
フェルナンド兄弟の次男、ザスカーの息子。
「生きておいでだったか。ザスカーの息子――」
エンリケ。
エンリケ・フェルナンド。恐らく、彼が最後の一族の統括者だった。
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