魔王

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魔王

 魔王。それは、魔法文明の萌芽の時代、突如として現れた、異世界転生者だった。  絶大な魔力で、瞬く間に世界を手中に収め、世界を面白おかしく作り変えようとして、しかし失敗してしまった。  300年後、魔王が引きこもりから外に出た時、手近な人間は、教員時代のお父さんと、マリルカおばさん、エメルダおばさん、アリエールおばさん、そして、世界最強の武闘家、ユノおばさんだった。  それ以降、お父さんの相棒みたいな立場にいたらしい。  その話をすると、「私が?!勇者の相棒だと?!私が馬鹿亀に見えるのか?!」とか、よく解らないことを言っていた。  その後、マリルカおばさんの世界革命戦略で、まだ政情が乱れていた、南の大陸の併呑を命令されたのだそうだ。 「私が?!ま、まあ手近な場所は、あそこしかなかっただけだ!別に銀髪の命令とかではない!」とか、ツンとしてデレたことを言っていた。  それで、今エミュレーターで取り込んだ、ファミコンをプレイしたらしい。  実は、お父さんだけでなく、僕もまた、異世界アースワンには行ったことがあって。  僕が新生児の頃、お母さんとアースワンの八王子に行ったことがあって。  イイジマ君とか、レイゼイさんにはお世話になったようで。  ああそれから、お母さんが未だに大好きな、マコトさんという人もいて。  マイルズさんが用意した、アイスカフェラテを飲みながら、僕は魔王と向かい合うことになった。 「で、今日は貴様か。コアラはどうだ?明らかに市場には乗らん原価だぞ?ロッテ如きにこの味が再現出来るか」  意外にも、魔王は凄い僕に優しかった。  ああ、お父さんなら、何のこっちゃだお前は。とか言いながら食べてたんだろうな。 僕も食べてみた。  あああ。サクサクのビスケット生地に、芳醇なチョコレートの香りと甘みが。 「ええ。確かにこれは、スーパーマーケットで売れるレベルじゃありませんね?ちょっとした、高級菓子です。リーゼロッテ、こっちにおいで」  リーゼロッテのお尻をモミモミしながら、僕は彼女を紹介した。 「魔王、彼女を、知っている?」  あん?言われて、魔王は、 「ああ。勇者の妾ではないか。今更どうした?勇者の嫁とか、ユノ様のお子の助産をしていたはずだが」 「ええ。改めて紹介します。僕の奥さんの、リーゼロッテ・シュバルツ・エルネストです」  んー。魔王は、しばらく黙考していた。 「うん?済まん。貴様、幾つになった?多分、勇者と私の魔王小屋に来たとき、16か17くらいではなかったか?」 「ええ魔王。お久しぶりでございます。(わたくし)は、今年で29になりました。とうに婚期を逃した、負け犬でございます」  んんんん。魔王が唸った。 「ん?あれ?小僧、貴様もう、いい年になったのか?私の記憶では」 「うん。僕、今9歳ですけど」 「あー。そうかー。記憶に混乱がなあ。あれか?アネショタか?」 「いえ。ミロードの盟友たる魔王に申し上げます。(わたくし)は、その、こちらの9歳のお子に」 「ええ。お腹に僕達の赤ちゃんがいるので、色々協力してください」   チーン。魔王の、時が止まった。 「貴様9歳のガキの分際でええええええええ?!」  童貞魔王が、情けない悲鳴を上げていた。
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