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高高度で密会
その晩、お酒を飲まない魔王は、中々僕を離したがらなかった。
「勇者の息子!子犬勇者!しかしデカいぞ貴様は!」
「フェリックス様、今日は」
うしろから、画面を埋め尽くすモミモミモミモミってなった、リーゼロッテが言った。
「うん。今日は仕方ないよ。僕は、お父さんの名代だもの」
モミモミが一時中断し、リーゼロッテはホッと息を吐いた。
そのあと、魔王は、マリカーだ!私の赤甲羅は凄いぞ!とか言ったので、
「アースワンのゲームですか?僕はあんまり」
「携帯アプリ配信してあったであろうに!全く仕方ない小僧だ!では奥に行くぞ!」
指パッチンで、僕達は消えた。
着いた場所は、高い尖塔の天辺のような空間だった。
「貴様は知らんだろうが、ゴゴドンゴと同じ高度だ」
「多分、僕は、その時母のお腹にいたような」
「貴様はあれか?私が当座で作った小屋の外で出来たのだろう。勇者の娘を押し付けられたのだったな」
何か、お母さんがすいません。お陰で、今僕はここにいます。
「では、まだるっこしいのは好かん。勇者の息子。貴様、旧南の残党を知っているな?」
旧南の残党。まだ、政情が不安定だった時代、生き残りを図った人々は、傭兵業を主にやっていたらしい。
「つまり、私です」
ああ、マイルズさん。
「でも、魔王の統治はほぼ瑕疵がないように思えます」
「当然だ。経験値が違うのだ。前は全世界だったが、今回は南のここだけだった。忌々しい銀髪め。全世界を託されれば発奮もしよう。南の大陸?楽ああああく勝おおおおお。とかまあ、思っていたのだが」
そういう物言いをするが、行間を読むと、まるで意味が違うようだった。
楽勝は、何よりも民のイージーリビングを願っての行動らしかった。
「まあそれでも、やはり旧態依然とした生き方をしている者達もいる。まあ、私が出張ってもよいのだがな?あのメイドに思いを寄せているという貴様が適任であろうと思うのだ。さて、貴様、勇者のしみったれたウィンチェスター以外に、銃はあるのか?」
「いえ、これで育ったものですから」
「そうか。ではくれてやろう。魔王謹製のブローバックだ」
テーブルに広げられた銃は、
「やはり、貴様等親子は9ミリであろう、デコッカー付きのハンマーピン式の、10連発だ。ワルサーっぽい?さあ?知らんな」
ワルサーp99っぽい銃だった。
「――軽い」
「メインフレームはオリハルコン製だ。マルファンクション対策で、容易に分解も可能だ」
そう言って、魔王は腕を振った。
僕は、弾かれたように、2丁拳銃を操っていた。
「ほーう。まあ、反応速度は勇者に近い。寧ろ、勇者の妹の上位互換だな」
「プリムちゃんは、ミラルカに振り回されてますが、本気を出したら凄いんですよ。魔法を使った近接戦闘に高い適性が」
「魔法CQCといったところか。噛みつかれたくはない」
「大丈夫ですよ。叔母は」
「まあいい。細かい点は、マイルズから聞け。ポートはそこだ」
え?ここ?トイレじゃなくて?
「宿敵の子がやって来た!忌々しいが気分がよい!ファンタだ!ファンタを持ってこい!サマエ」
そう言って、魔王は消えた。
「ご友人が遊びに来たのが、よほど嬉しかったのでしょう。浮かれておいでで」
「ええ。魔王って、結構優しい寂しがり屋だと思います」
「まあ、あの人のわがままに、巻き込まれただけのような気がしますが。あれで、正しい治世をされる方ですからね。やらないと、あとで何を言われるか」
マイルズさんは、深い溜め息を吐いた。
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