棚ぼた

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DOGSO。 Denying an Obvious Goal Scoring Opportunity」の頭文字を取って通称ドグソ。「決定的な得点機会の阻止」という意味のファウルだ。 サッカーの歴史の中で、失点を防ぐ手立てとして意図的なファウルを敢行する選手が増えたことに端を発する、立派な競技規則の一つだ。 そして、VARやオンフィールドレビューのおかげで、審判はこの違反を映像で確認できる。 つまり、主観ではなく客観的に判断ができるというわけだ。 しかし、そんなことよりもこの後の采配だ。 先ほどイエローカードが出された時点でアップを始めていた僕は、当然この後試合に出ることになる。 だが、キーパーが退場になった場合は、控えのキーパーが出場した上で、フィールドプレーヤーが1人、ピッチ外に出なければいけない。 幼い頃は、こう思っていた。 退場になったんだったら、キーパーなしで試合すればいいじゃん。 しかし、競技規則にはこう記されている。 「試合はキーパーのいない状態で再開してはならない・キーパーのいない場合、試合は成立しない」 これをいろいろな局面に当てはめると、例えばゴールキーパーが退場になった時点で交代の枠を使い切っていた場合はフィールドプレーヤーの誰かがユニフォームを着て、キーパーとしてプレーしなければならないのだ。 幸いにして、今日の交代はまだセイヤ1人だから、その局面ではなかったものの、マシーネの采配は非情だった。 「えええ〜…オレっスかぁ〜…。」 僕がピッチに出ると同時にアランの代役として退場する使命を課せられたのは、出場してまもないセイヤだった。 退場になれば、ベンチにいることは許されない。アランは何も言わず、セイヤは無念そうに、ロッカールームへと向かう入り口へ入っていった。 ただ。 ここからは切り替えだ。 トップチーム合流から4年、公式戦初出場。 まさかこんな形で初陣になるとは思ってもみなかった。 だが、出るからには自分の仕事を果たすまでだ。 僕は気合いを入れるため、グローブを嵌めた手で自分の頬を2、3発叩いて気合を入れた。 「シュウ、初出場おめでとう…と言いたいところだが、今はそんなこと言ってる場合じゃねえ。ぜったいに守るぞ。」 キャプテンマークを巻いたジュンさん始め、みんな真剣な面持ちをしている。 「シュウ、りらっくすネ、マズハ、ソコカラネー。」 ロビーはそう言って軽くハグし、背中を叩いてくれた。 ペナルティエリア外にボールがセットされる。 僕はゴール前で構える。 「壁は少なくていいです!!絶対に防ぎますから!!」 気づけば、僕はそう叫んで指示を出していた。
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