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それで昇り詰めることはできなかったが、十年以上ぶりに戻ってきた僕に見えた故郷の景色は、すっかり変わり果てていた。
僕は正直、勝ちはしなかったが、自分を丸ごと預けて試したことで、男に言われたように負けもしなかっただろう。
あのころの僕は、もうどこにもいなくなっていた。
だから、もう町では誰も僕のことを気づかないし、そもそも僕だって過去の誰のことも分からなくなっていた。そして、それ自体がどうでもよくなっていた。
かつては心底、腐り切っていた。それは事実かもしれないが、もうすっかり過去に置き去りになっている。
今また最期に向かっている。それを肌で感じているが、これからまた、その風が心地よいくらいに駆け抜けたい。
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