0.1mmの隙間を目指して

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 俺は軽音部。ボーカルは俺。 「きゃー、リュウヤくん、素敵ー!!」  そんな歓声があちらこちらから聞こえると、自分がものすごい人気ミュージシャンにでもなった気分になる。 「わー、おつかれー」 「ありがと」  初菜ちゃんは舞台裏でパチパチと拍手を鳴らす。 「リュウくん、今日はいつもの2/1倍かっこよかった!」 「それ普通に2倍でいいんじゃない?」  と、こんな風に独特の言い回しで感想を述べてくる。 「あ! 歌はいつもの0.5倍悪かったよ!」 「ややこしいな、普通によかったって言ってよ」  独特すぎてたまに何を言ってるのかわからないときもある。 「この調子でいったら、来年の文化祭にはこの体育館も0.1mmの隙間も入らないくらいぎゅうぎゅうになるかもね!」 「狭すぎるよ。もう少しゆとり持った方がいいと思うよ。人気なのは嬉しいけど」  しかし、このちょっとずれてる感じがたまらない。 「というわけで、次わたしの番ね。応援してね!」  初菜ちゃんのバンドはステージに。その途端、体育館は一気に満員になる。人気の差が違うよな。 「みんな、盛り上がってるー!?」 「ハツナー!!」  歌を歌ってるときの彼女は、普段の天然な感じが一掃される。  俺ももっとがんばろう。0.1mmの隙間は無理だが。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!