第11話 黒マントの男

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第11話 黒マントの男

 ここは山奥のルグロ家別荘。 しばらく人が訪れなかった建物の周りは鬱蒼(うっそう)として人影もなく、閑散としている。 聞こえてくる音といえば、森に住んでいる鳥や動物たちの鳴き声だけだった。 「ね、ねぇアメリ。ここがうちの別荘なの? 初めて来たんだけど……」 「左様でございます。二十年前まで旦那様と奥様が利用されておりました」 「二十年前えええ?」  (私が生まれる前じゃない……)  私はそう思いながら、改めて別荘を見上げた。 こんなところでダイエットが出来るのだろうか。 私が呆然として立ち尽くしていると、アメリが私に言った。 「フルール様には、ここで私と他の使用人たちと一緒に隅々まで別荘の掃除をしていただきます。食事も今までとは違い質素なものになりますがよろしいですか?」  アメリの真剣な瞳に、私も覚悟を決めてうなづいた。 「ダイエットのためですもの。私やるわ!」 「さすがはフルール様。その意気でございます。それから……フルール様に紹介したいお方がいるのですが」 「紹介したい人?」 「ええ……パトリス様? そこにいるんでしょう? こちらに来てください」  アメリは森の入り口辺りに目線をやると、パトリスという聞いたことのない名前を呼んだ。 すると、森の木々がガサガサと動いて木の上から一人の男が飛び降りてきた。 「きゃあ!!!」  私は、びっくりして思わず叫び声をあげてその男を見た。 男は黒いフード付きのマントを被っており、中に着た白シャツは第ニボタンまでボタンを外しただらしない格好をしている。 そして、すたすたと私とアメリの前に来ると持っていたタバコに火をつけた。 「やっと来たか。遅すぎて木の上で寝ちまったぜ……ふーっ……」  男は、眠そうに頭を掻きながらタバコの煙を吐いた。 「うっ……げほげほ……タバコ臭い! だ、誰なの? あなた」  タバコの煙にむせながら私が尋ねると、男は私を興味津々といった目で見て笑った。 「あはは、すまんすまん。にしても……どうしたらこんなに肥えられるかねぇ……」 「なっ!」  男の失礼な物言いに私がむっとしていると、アメリが呆れたようにその男に言った。 「失礼ですよ、パトリス様。ちゃんと自己紹介をしてもらわないと困ります」 「はいはい。ったく……アメリは本当にマノンに似て口うるさいな……。あー俺はパトリス。パトリス・ランベールだ。よろしくな」  パトリスはそう言うと、笑顔で私に手を差し出した。
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