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第16話 噂の二人組
ここは、某伯爵家で行われている夜会会場。
煌びやかなダンスホールでは、クラッシックの生演奏に合わせて何組かの男女がダンスを踊っている。
その中でも一際目立っている男女のダンスに、周りで見ている観客は熱狂していた。
「ほぅ……見事なダンスだ。どちらの紳士とご令嬢かな?」
「あの方素敵だわ! あんな方に私もダンスのお相手お願いしたい!」
「可憐なご令嬢だ……。一体誰なんだ」
観客の目を釘付けにし、夢中にさせている男女。
最後のターンを決め、華麗にポーズを決めるとダンスホールに歓声と拍手が鳴り響いた。
「今日はこれで帰るぞ」
男が女の耳元で囁くと、女はうなづいた。
「ええ。行きましょう」
男女はまだ歓声が鳴り止まない屋敷をそっと抜け出すと、消えるようにその場から姿を消した……。
***
今、社交界で噂になっている男女。
男の名前がパトリック、そして女の名前がフロランスということだけしかわからない。
謎の二人組だ。
時折ふらっと夜会に現れては、最高のダンスを披露するといつのまにかいなくなっているという。
どこかの貴族なのだろうが、誰一人としてパトリックとフロランスのことを知るものはいなかった。
しかし、人々は彼らのダンスを見たいがためにこぞって夜会を開き、いつ来るかもわからない二人を今か今かと待ち続けているらしい……。
***
「すっかり巷で話題になっているようだな、俺たち」
「そうね。あれだけ話題になればきっともうリシュ様の耳にも入っているはずよ」
私とパトリスは、山奥の別荘で夕食を食べながら話をしていた。
巷で噂の二人組。
正しく、私とパトリスのことである。
「リシュといえば、ついにアルベール公爵の娘のルイーズにダンスの相手をしてもらえることになったって聞いたぞ」
「そう……」
「五日後、アルベール公爵の家で開かれる夜会で踊るらしい……。乗り込むか?」
「まずは偵察ってとこね。ルイーズ様にデレデレしてるリシュ様の顔を見に行ってあげる……」
次の夜会で、ついにリシュと会うことになる。
少し苦しくなる胸を押さえながら、私はパトリスと計画を進めていった。
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