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第18話 駆け引き
ダンスが始まり、ダンスホールを縦横無尽に動いているとリシュも私の近くに近づいてきた。
私がリシュをチラッと見ると、リシュも私を見ており、少し微笑んでいるような顔をしている。
その余裕な表情にムッとしたが、こちらも負けずに微笑みを返してあげた。
そしてすぐに目を逸らす。
何回かそれを繰り返した後、ダンスは終了した。
注目された二組のダンスが終わり、広いダンスホールに歓声と拍手が響き渡っている。
それに応えるように優雅にお辞儀をすると、私とパトリスはいつものように静かにその場を後にしようとした。
ダンスホールから庭に出て馬車がある場所まで歩いていこうとしたその時、いきなり誰かに手を掴まれた。
(!!!)
咄嗟の出来事に声が出ない私にパトリスは気づかず、先に馬車のほうへ行ってしまう。
すると、手を掴んだ誰かはそれを確認したかのように私に話しかけてきた。
「こんな無礼をお許しください……」
その聞き覚えがある声に、私は恐る恐る後ろを振り向いた。
そこには私が予想していた通り、リシュが私の手を掴みながら立っていた。
(リシュ様!!!)
近くで顔を見られたが、リシュは私がフルールだということに全く気づいていないようだ。
それどころか、熱い視線を私に送りながらその場に跪いた。
「あの……手を離してもらえませんか?」
屋敷にいる人々には聞こえないように、私は小さな声でリシュに言った。
リシュは私の言葉に首を横に振ると、懇願するように私を見つめた。
「一度でいい。私と踊っていただけませんか?」
「……っ! でも私はもう帰らないと……」
「一度でいいのです! フロランス様!」
リシュは、帰ろうとして手を振り払おうとする私を逃さないかのように立ち上がると、私の手を自分のほうへ引っ張って私を抱きしめようとした。
しかしその時、後ろから声が聞こえた。
「俺の大事なお嬢様に何か御用ですか?」
(パトリス!!!)
リシュは、はっとしてパトリスを見るとチッと舌打ちして私の手を離した。
「おやおや? リシュ様じゃありませんか。こんなところをルイーズ様に見られたらどうするんです?」
パトリスのからかうような言い方に苛立ちを覚えたのか、リシュは悔しそうに私を見ると「私は諦めませんから」と呟いて逃げるようにその場から立ち去っていった……。
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