第4話 ダンスのお誘い

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第4話 ダンスのお誘い

「リ、リシュ様!!!」  私は、驚きで持っていたお皿とフォークを落としそうになった。 リシュは、そんな私に相変わらず爽やかに微笑み掛けながら話を続けた。 「どこにいるのか探しました……お腹の方はもう満たされましたか?」 「は、はい! と、とても美味しい料理ばかりで……。あの……リシュ様は私を探していたんですか?」  ナプキンで口の周りを拭きながら、私はリシュに尋ねた。 「ええ。私のダンスのお相手になっていただきたく、お願いに参りました」  (えええ!!!)  憧れの人からの思わぬ言葉に、私は嬉しいよりも困惑した気持ちになってしまう。 「リシュ様が、私とダンスを……?」 「はい」 「……」 「フルール様? もしかしてお嫌でしたでしょうか?」  リシュは、その綺麗な顔を歪ませて寂しそうに私の顔を見た。 呆然としていただけの私は、はっとして即座に首を横に振った。 「嫌だなんて! そんなこと絶対にありませんわ!」  私がそう言うと、リシュは再び爽やかな笑顔に戻って私に言った。 「良かった。では、あちらに参りましょうか」  リシュはダンスフロアを指差すと、私に自分の右腕を差し出した。  (こ、これって、エスコート、よね……)  男性にエスコートされるなんて、父親のルグロ公爵にしかされたことはない。 私は、緊張で胸がドキドキして今にも倒れそうになりながらもリシュと腕を組んだ。 私の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれるリシュの優しさに心の中で感激してしまう。 そんな中、私とリシュの周りでは相変わらず他のご令嬢たちや貴族たちがこちらの様子を見ていた。 しかし緊張している私は、みんなに何かを言われていることなど全く気にならないくらいもう周りが見えていなかった。  ダンスフロアでは、何人かの男女がクラッシックの生演奏に合わせてダンスをしている。 リシュは、空いている空間を見つけ私をそこにエスコートした。 そして一度私と向かい合わせになると、片手を自分の胸に当てて私にお辞儀をして言った。 「ではフルール様、お手を」 「はい……」  私の両手を優しく握ると、リシュは音楽に合わせて動き出した。 ステップ、そしてターン……。 私は、必死にリシュの動きについていこうとしたが、途中で何回もリシュの足を踏んでしまった。 「痛っ……」 「あ、ごめんなさい!!!」 「いいんですよ……あはは……」  足の痛みと私のダンスの下手さに顔をひきつらせるリシュを申し訳ない気持ちで見つめながらも、私はなんとかダンスを終えたのだった。
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