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第7話 名も知らぬ花
「あ、やっぱりお姉さんの金色の髪に合ってて可愛い!」
「私が、可愛い……?」
「うん! 可愛いよ」
少年はそう言うと、座っている私の足下に跪き私の手を取った。
チュ
(!!!)
いきなり手の甲にキスをされ、私はびっくりして少年を見つめた。
すると、少年は照れ臭そうに笑って立ち上がった。
「えへへ。兄様の真似事してみたんだ!」
「そ、そう……」
(きっとこの子のお兄様も女好きなんだわ……)
またもリシュの事を思い出してしまい、私は暗い気持ちで遠くを見つめた。
その時、城の中のほうから声が聞こえた。
「おーい、アル! どこだー? アル?」
その声を聞いて、少年が声のするほうを振り向き言った。
「あ! 兄様だ! 僕帰らなきゃ。じゃあね、お姉さん! また城の料理を食べに来てね。バイバイ!」
笑顔でそう言うと、少年は声のするほうへ走っていった。
私は、その不思議な少年が走っていく姿をただ呆然と眺めていた。
「何なのよ、あの子……」
ふと髪に手をやると、さっき少年が飾ってくれた花が手に当たった。
壊さないようにそっとそれを取ると、可愛らしいピンク色の花が、私の手の中で優しく微笑んでいるようだった。
(可愛いわ……)
名も知らぬ花が私の傷ついた心を癒してくれているようで、私はしばらくその花を見つめた後、そっと庭から従者の待つ馬車へと戻ったのだった……。
☆
屋敷に戻った私は、出迎えた両親や使用人たちから逃げるように自分の部屋に戻った。
部屋の外で、ルグロ伯爵が心配そうに私に声を掛けた。
「フルール! どうしたんだい? 何か夜会であったのかい?」
「何でもないの! ほっといてちょうだい!!!」
巻いた髪をほどき、綺麗なネックレスを外し、ドレスを乱暴に脱ぎ捨てると私は布団を頭から被った。
「フルール……」
私の言葉に、ルグロ伯爵とその横にいた母サンドラは顔を見合わせ、諦めたようにその場を去った。
布団を被りながら、私は決意していた。
(絶対に痩せて見違える美女になってやる! そしてリシュ様に復讐してやるわ! その偽物の爽やかな笑顔を苦痛の表情に変えてあげる……)
「ふっ、ふふふ、あははは……」
苦痛に歪んだリシュの顔を想像するとすごく愉快になってきた。
暗く沈んだ屋敷に、私の笑い声だけが不気味に響いていた……。
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