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プロローグ
―――カツーン、カ、カツーン。
王宮の北に位置する古い塔の石造りの階段を、数人の騎士が昇ってくる音がする。
私は木枠を窓から外し、部屋に明かりを入れる。
風が吹き抜け、思わず身震いする。
扉も何もない入り口から現国王であるロバートが、険しい表情の騎士を2人連れて部屋に入ってきた。
「ハージュリア元王妃殿下、お元気そうで何よりです。大変お待たせいたしました。義姉上の今後の選択肢が決定いたしました」
ロバートは懐から1本の巻物と小瓶を取り出す。
私は小さく頷き、軋む椅子に腰かける。
この塔に閉じ込められて3カ月間まともな食事を与えられておらず、立っているのは辛いのだ。
「義姉上の身の振り方として、ひとつ。
義姉上を祖国であるユーヴァルトへ送還する。この際、我が国プライザから私財であっても一切の持ち出しを禁じる。
ふたつ。義姉上の命尽きるまで、この北の塔に幽閉する。最低限の衣食住の保障はしよう」
祖国への帰還はありえない。
私はこの国に来た時から……いえ、5歳の頃から王族の一員とみなされていないのだから。
身ひとつで放り出されたところで、野垂れ死ぬのがオチだ。
最低限の衣食住とはどの程度のものか。
どう考えても、今より待遇が良くなるとは思えない。
これからの季節、この薄い毛布と肌着同然の衣類でどう過ごせと言うのだろう。
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