お会いしたくて仕方がないのです

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 ガタン、ゴトン。  長閑な農村、豊かな自然が広がる窓の外の風景を眺める。  特別車両でもない、一般向けの座席。  まさかここに王女がいるなんて誰も思わない。  初めて見る祖国(ユーヴァルト)の王宮の外。  1年間の期限付きとはいえ、私は自由を勝ち取った。  そう、自由!生まれて初めての自由だ!  記憶の中の前の人生では、結婚によりユーヴァルト国からプライザ王国へ移って正妃扱いはされていたが、私に自由は無いことには変わらなかった。  毎日決められた時間に起床し、着たくもない派手なドレスに着替え、豪華な食事をひとりでとり、正妃として最低限の仕事をじっくり時間をかけてこなす。  カラクリ人形のように決まった時間に動き、箱に仕舞われる生活だった。  友人と呼べる者も尊敬できる者も、信頼できる者もいない。  密かに読んだ小説のように、街をぶらつくことも、小鳥のさえずりを楽しむことも、笑顔で挨拶することもしたことがない。  当然、恋もない。  この1年間、私は一生分の自由を満喫する。  そして、18歳になれば大人しくプライザ王国へ正妃として嫁ごう。  愛がない結婚とわかっていても、正妃として尊敬される存在になりたい。  前の人生での私は、あまりの無知さに失敗を繰り返した。  私が有能であれば救えるはずだった民の命を、無駄に落とすことにもなった。  私が夫の愛を得ようと足掻けば足搔くほどに、夫の心は離れていった。  これを全て塗り替えるのだ。  未来がわかっていてどれだけ努力しても、辛く厳しい生活になる事には変わりないかもしれない。  私はそれを受け入れ、覚悟するために……1年間だけ『ただのハージュリア』として生きたいのだ。その機会を神様が与えてくれた、そう信じたい。
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