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おばあちゃんが私を抱きしめ、しばらく肩を震わせながら涙する。
私はポンポンとおばあちゃんの背中を優しく叩く。
「あれから……ハージュ様が不当な扱いを受けていないか、心配で、心配で…」
前の人生で届いた手紙にも、所々で私の身を案じてくれている事が感じ取れた。
「よく、ここに住んでいるとわかりましたね」
おばあちゃんの疑問にギクッとする。
今この人生では、手紙を受け取ってはいないのだから。
「うん、探したの。それでね、お願いがあるのだけれど……」
「何かしら」
「今日から1年間だけ、ここに住まわせて貰えないかな。掃除でも洗濯でも何でもする。あ、でも料理は出来ないけど」
この国を出るまでの13年間、メイドが私の世話をほとんどしてくれなかったので、料理以外のことは自分でしなければいけなかった。
「それはありがたいわ。私、足がここ数年悪くてね。ちょうど手伝ってくれていた子がお嫁に行っちゃって……」
聞けばこの近所には足の悪い高齢者が多く、お嫁に行ったというその女性は皆にお遣いをよく頼まれていたという。
おばあちゃんは編み物で生計を立てていた。
「何か私も仕事が出来れば良いけれど……あぁ、それでも少しは持ってきたのよ。結構列車代に使っちゃったけど」と言って、トランクケースから巾着を出す。
「まぁ!このトランクケース、懐かしいわね。お譲りしていただいたの?キャシー様がこれをお気に召していて、あなたが凄く羨ましがっていて……あら、内側の布張り、張り替えたの?」
「え?知らないよ」
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