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「狭いところですが、どうぞ」といっておばあちゃんはお兄様と騎士様を招き入れる。
私はお二人のために紅茶を淹れる。
「ありがとう。キミは『ハージュ』というのかい。歳はいくつ?」
お兄様が私をまっすぐ見つめ、問いかける。
「20歳です」と即答で微笑んでみせる。
「うちの子はただの『ハージュ』ですけどね。ハージュリア様と同じ呼び名だったので嬉しかったのを覚えていますよ。ハージュリア様はご健在ですか?」と何食わぬ顔で聞くおばあちゃん。
やめて〜、掘り下げないで〜。私の胃が痛くなる……。
「あぁ、リアな。元気だぞ。今度隣のプライザ王国へ輿入れが決まったんだ」
元気だなんて、こちらもよくもまあしれっと嘘を。
お兄様が私の顔をまともに見たのは多分、私の5歳の誕生会が最後。
「へぇ、そうなのか」とラウル様。
「あぁ、まだ非公表だけどな。だからマリー、気にしなくていいぞ」
「あらあら、おめでとうございます。それなら私、ハージュ様にお祝いを送りたいけどよろしいかしら」
え、おばあちゃん本当?嬉しい。
「あぁ、きっと喜ぶな。でもレース編みならラウルの依頼を優先してくれよ。で、引き受けてくれるのかな」
続く茶番に一喜一憂していたが、お兄様の言葉にお二人の訪問の目的を思い出した。
「……誠心誠意込めて製作させていただきます。ただ、普段の仕事を控えたとしても私はもう歳なので、大きな物ですとお時間をいただく事になりますの。よろしいかしら」
「小物でも半年先でも構わない。ただ彼女に喜んで欲しいので、あなたの最高の作品をプレゼントしたいのです」と真顔のラウル様。
素敵だなぁ、きっとラウル様はその女性のことを本気で愛していらっしゃるのね。でなきゃお兄様の紹介だからと言って、こんな辺境の地まで自ら足を運ばないわよね。
……いいなぁ、私もそんなふうに愛されたい、愛したい。
だけど今は何をしても自由といえども、流石に恋愛はご法度よね。
だって私9カ月後には、プライザ王国の王子の正妃となる身なのだから。
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