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「マリーにはこのまま製作を続けてもらう。ラウルには月イチぐらいで来るように伝えておくよ」
月イチ……レース編みの完成まであと3カ月の予定。
ご近所の皆さん残念がるだろうな、と項垂れる。
ラウル様はよく動いてくれる上に人当たりも良いので、高齢者の方々に非常に人気なのだ。
「あの男性、次はいつ来てくれる?」そう尋ねてくる方も少なくない。
正直、私も寂しい。
ラウル様に来ていただいたら、色々手伝っていただいて助かっている事も大きいけど、けど、けど……。
いや、第二王子の護衛でなくなったら、貴重なお休みを潰して来ていただくことになる。甘えてはいけない。
「じゃあ、またお前の結婚式でな」
「えっ!お兄様、プライザ王国まで来てくださるのですか!?」
お兄様の言葉に驚く。
だって、前の結婚式ではお父様と長兄しか参列してくださらなかった。
お二人だって式が終わると直ぐに帰国されて、披露パーティーで私はひとりぼっちになり、誰とも話すこともないままだった。
「まぁ…マリーからの祝いの品も届けてやらなきゃな」と照れくさそうに言い、去っていくお兄様。
どうしよう、嬉しい。
何故、人生をやり直しできたかなんてわからない。
でも全て良い方向に向かっている。
……怖い。
5歳から54年間生きていた中で、こんなに幸せを感じたことはなかった。
何かあるのかも知れないと、思えてきた。
次、目を覚ましたら強制的にプライザ王国に送還されていたりして、またあの北の塔に幽閉されているかも知れない。
明日には大切なもの全てを失うのかも知れない。
嫌だ。
前の人生では気がつかなかった想いを、得られなかった幸せを、少しでも多く抱いてプライザ王国に嫁ぎたい。
どうか、どうかこの幸せな生活が…あと半年間続きますように。
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