今だけ、好きでいさせてください

5/5

152人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
「何でしょう、これは」  中身を出してみると、小さなオレンジ色の石がついたシンプルなイヤリング。 「これは……あの露店で購入されたのですか?」 「そう、ハージュさんに似合うと思って。今日のお礼だよ」 「お礼って……私にくださるのですか!?」  お礼だなんて、むしろこちらがしなくてはいけないぐらいなのに。 「うん。実はあの露店、王都で貴族御用達の宝石店のデザイナーが趣味で作った物を出品しているらしくて。1点物の貴重な品だった。ハージュさんがあの店に気がついてくれたから、良いものが買えたんだ。ありがとう」 「いえっ!ありがとうございます!嬉しいです…」  ラウル様の嬉しそうな表情。  そのお顔が見られただけで充分なのに、こんな素敵なプレゼント……。  どうしよう。  一緒にいればどんどんラウル様の事が好きになっていく。  あと半年もすれば、私はプライザ王国に嫁ぐというのに。  この気持ちのまま結婚してはいけない、そう思う。わかっている。  ラウル様のお心に、無理矢理入り込むつもりもない。  告白するつもりもさらさらない。  だけどせめてあと半年の間だけ、自分に正直に生きていたい。  必ず、必ず半年後には何があってもこの気持ちを切り捨てるから。  だから、だから……ラウル様を好きだというこの気持ちを、実らない恋、実らせてはいけない恋だとわかっていても今だけ、今だけ自由に育てさせてください。  そうすればきっと、結婚後夫から愛が得られなくても、無理に愛を求めるような真似をせずに済むはずだから……。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加