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私がここに来て7カ月、ラウル様がおひとりでみえるようになってから1カ月が経った頃、水曜日でもないのにラウル様が突然みえた。
「今日はどうなされたのですか?」
どうも顔色が悪いようなので、ラウル様を椅子に座らせ温かい紅茶を勧めた。
きゅっ、と私の服の半袖を突然ラウル様が掴んだ。
「……ラウル様?」
私をじっと見つめ、思いつめた様子のラウル様。
まさか、私の正体が王女ハージュリアだとバレた?
沈黙の時間が、非常に長く感じた。
「……すまない。マリーさんに依頼している品、キャンセルしたい」
「え?」
「いや、支払いはする。約束の金額に上乗せしてもいい。だけど、俺にはそれを受け取れない」
微かに伝わる手の震え。
どうやら私の正体がバレたわけではないらしい。
一体何があったのだろう。
「以前ハージュさんと購入したイヤリング、あれを装着している女性を街で見かけたんだ」
「それって……エメラルドグリーンのものですか?」
「そうだ。見間違えではない、1点物のはずだと思ってその女性に尋ねたんだ。そうしたら『自分はある屋敷のメイドで、主人が要らないと言って自分にくださったのだ』と言われた。やはり彼女は……そういう人間だったのかと」
「そういう人間って……」
以前、プレゼントを喜ばれたと言っていたのに。
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