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「彼女にマリーさんの作品を贈るなんて勿体ない。だけど、俺の為に今日まで頑張ってくれたマリーさんに申し訳なくて……」
大きな背中が少し丸まり、小さく見える。
私は震える背中をトントン、と叩いた。
「何か誤解があったのかもしれませんよ。もしくは、イヤリングが苦手な方だとか。キャンセルはお相手からお話を聞いた後でもよろしいのでは」
キャンセルなんて聞いたら、おばあちゃんはきっと悲しむ。
だからといって、それを大切に扱ってもらえない人にはお渡ししたくない。
ラウル様は「彼女に会って話を聞いてみる」と言い、去っていった。
意中の女性というのはどのような方なのだろう。
ラウル様を幸せにしてくださる方でないと……私、諦めがつかなくなってしまう。
そんなモヤモヤした気分のまま、ラウル様の訪問は無く3週間が過ぎた。
「俺との縁談は反故にしてもらうよう親に依頼してきた。反対されたが、俺はもう彼女と結婚するつもりは無い」
3週間ぶりにみえたラウル様が私に向かって、飛び上がるくらい嬉しい言葉であって、立ち直れなくなるくらい残酷な言葉を伝えてきた。
立ち入った話だと思った私は、ラウル様を自室に招き入れた。
「そんな……それで良いのですか?」
「あぁ。もともと向こうの家が強引に勧めてきた縁談だったが、本人同士乗り気では無くてね。一応俺なりに状況を良くしようと努力したが……全くの無駄骨だったという事だ」
目の前に立ったまま悲しげな表情を浮かべていたラウル様は、私の顔を見つめ、ふっと笑い優しい表情に変わった。
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