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抱きしめられるって、こんなに安心するものなんだ。
どうにもならないと思っていた事が、この腕の中にいれば何とかなるような気持ちになる。
きっとそれは、そうあって欲しいとの願望からだと思うけど……。
「私、あと4カ月でここを去らなくてはいけないのです」
ラウル様の身体が少し反応した。
「だから、お気持ちにはお応えできません」
ぎゅっと私の身体を強く抱きしめる。
「それだけが、理由なのか」
「……いいえ」
「俺の事……嫌いか」
「……いいえ」
ごくん、と唾を飲み込んだ。もの凄い異物感にむせそうになった。
「私にも婚約者がいます。親が決めた相手ですが、私はその人生を受け入れるつもりです。愛のない結婚だとわかっていますが、自分なりに努力するつもりです」
「だったら何故……」
「こんなところにいるか、ですか?おばあちゃんに会いたかったことと、たった1年間だけでも自分の人生を謳歌したかった。そうすれば、この先頑張れると思ったんです……」
抱きしめられているのでラウル様の表情が確認できない。
呆れられているのだろうか。
私を強く抱きしめたまま、黙っている。
聞こえるのはラウル様と私の鼓動。
このまま、この胸に居たい。
「……ハージュさんは、ちゃんと自分の運命を受け入れているんだな」
ラウル様が呟いた。
「だけど、これだけは本音を聞かせて欲しい。ハージュさんは、俺の事をどう思っている?」
本音なんて口にしていいはずがない。だけど、気持ちが溢れてくる。
「好きです、お慕いしております。ラウル様にお会いできるのが、本当に嬉しくて……離れたくないと思っています」
その言葉にラウル様がほっとしたのか、脱力した感じが伝わってきた。
私は両腕を伸ばし、ラウル様の背中に回す。
「この気持ちを糧に、残りの人生を過ごすつもりでした」
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