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遠い記憶なのに鮮明です
……寒い。
冷たい風にさらされて、身体が冷え切っている事に気がついた。
あぁ私、死ねなかったんだ。
いつものようにゆっくり身体を起こそうとするが、身体が軽い。
そして、何故か私はなんとなく覚えのある納屋にいた。
「ハージュ!どこにいるの!?お父様がお呼びよ!」
聞き覚えのある声がする。
納屋の扉が勢いよく開き「貴方またこんなところで寝ていたの!?嫌だ、埃だらけじゃない」と険しい顔をする、若い女性。
―――キャシャラルドお姉様?
その姿は私がプライザ王国に嫁ぐ前、他国にお嫁入りしたお姉様そっくりだった。
まさか、お姉様のお孫さん?いや、似過ぎでしょう。
私の名前『ハージュリア』を『ハージュ』と呼ぶのはお姉様だけ。
父も母も兄達も昔はそう呼んでいたらしいが、5歳の時から私の名前を呼ぶことはほとんどなく、必要あれば『リア』と呼んだ。
何故?何故お姉様はあの頃のお姿のままなの?
「ちょっと、誰か!ハージュの埃を払って頂戴!手洗いの桶も持ってきて!」
そしてここは……わが祖国ユーヴァルト国の王宮の庭だ。
まさか私が薬で眠っている間に、この国に運び込まれたの?
「魔法の授業が嫌で、こんなところに隠れていたのね。貴方はただでさえ無能なのだから、授業ぐらいちゃんと受けなさい」
違う。
一気に過去の記憶が蘇る。
魔法の授業ではいつも時間以内に魔法を発動できないからと、罰として納屋に放り込まれていたのだ。そもそも私には魔法を操る能力がほぼ備わっていないので、まともに授業を受けられたことがなかった。
だけど、それを誰かに訴えることは出来ない。
魔法の師との『緋の誓い』で、どんなに授業内容に不満を持ってもそれに従い、他言しないという誓いを立てられていたからだ。
遠い記憶のはずなのに、まるで昨日の事のように思い出す。
厳しいながらも、唯一私の事を気にかけてくれていたキャシャラルドお姉様。
いつか『キャシーお姉様』とお呼びしたいと心に秘めていた。
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