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「誰か、誰か助けてーーーっ!」
震える声で精一杯叫ぶが、その声はただ虚しく月夜の静まり返った空気に溶けて消えていった。
「誰もこんな裏庭に来ませんよ。ああもう。この苺、邪魔ですね」
ロバートが、不服そうに棚を蹴った。
―――苺?これは苺なの?
力任せに膝を崩され、私は尻もちをついた。
そんな危機的状況の中、ふとラウルの言葉を思い出した。
『家の裏の森に秘密基地も作って、苺の畑も作ったんだ』
私の人生の中で、一番幸せで大切な時間。
「ラウル……ラウル助けてっ!ラウルッ…」
必死に抵抗しながら何度も名前を呼ぶことで、私は諦めそうになる心を奮い立たせる。
「ラウル?それはあ……ぐはっ!」
ロバートが叫んだ次の瞬間、彼の身体は棚の向こう側へ吹っ飛んだ。
逆光でシルエットしかわからないが、ロバートの後ろに誰か男性がいたらしい。
「……ハージュ!」
その男性は私に駆け寄った。
「……ラウル?」
私の目の前に、何故かラウルがいた。
「ごめん、本当にごめん…」
絶望のあまりの都合の良い幻覚かと思いきや、その声、この顔、間違いなくラウル。
泣きそうな瞳で私をじっと見つめ、ぎゅっと抱きしめる。
その身体は熱く、汗をかいている様だ。
「なんで…どうして」
状況が理解できないでいると、棚の向こう側で急に人が立ち上がった。
ビクッと身を強張らせ、その方向を見るとお兄様であるエルマルク王子がロバートを縛り上げて立ち上がったところだった。
「お兄様!」
「リア、怪我はないか?」
「大丈夫です!それよりお兄様、何故ここにラウルが…」
「何故って……本当にお前まで気がついていなかったのか!?ラウルは…」
ラウルが右手を上げ、お兄様の言葉を静止した。
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