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私は訳がわからぬまま、お姉様が呼んだメイドによって最低限の身を整えられ、ひとりで父の執務室へ向かう。
父はこのユーヴァルト国の王だ。
執務室に入ると、いつも扉の前で立たされていた。
扉と父のデスクとの距離は遠く、まともに父の顔を見た覚えがない。
「やっと来たか。私は忙しいのだ。待たせるな」
父は手元の書類に視線を落としたまま、ため息交じりに叱咤する。
「はい、申し訳……」
「黙れ、時間の無駄だ。お前に縁談が来た。隣国プライザ王国から、王子の正妃にとの事だ」
「はい?」
先日その職務を解消されたばかりですが?
しかも王子って…ロバート国王の息子のダンテ?
いや、私59歳ですが!?
「なんだ、その間の抜けた返事と顔は!詳細はわかってはいないが、プライザ王国には第一王子と第二王子がいる。そのどちらかだ。この世界一の魔法大国ユーヴァルトの恩恵にあやかりたいのだろう。全く、嫌気がさす」
魔法国は世界中で数えるほどしか存在しない。
その中でもユーヴァルトは魔法使いの数、質とともに世界一と言えただろう。ただし、それは10年以上前の話。最近では確か、クロリャ魔法国という小さな国が頭角を現してきていた。
それにしても、プライザ王国の第二王子…?
確かロバートの息子はダンテ1人だったはず。
しかも既にダンテのご正妃は存在している。
「何かのお間違えでは……」
「あぁ、私も思ったよ!キャシャラルドではなくリア、お前を名指しとはな!1年後に入国、その半年後に結婚式と打診してきた。厄介者払いが出来てこちらとしても好都合だがな!」
と、手元の書類を机に叩きつける。
私、1年後には還暦ですけれども!?
動揺して辺りを見回した時、ふと本棚のガラスに自身の姿が映り込んだ。
「えぇぇっ!?」
思わず本棚に駆け寄る。
ガリガリに痩せた、17歳の頃の私の顔がそこに映っていた。
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