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これは……信じがたいけれど、チャンスなのでは?
私は踵を返し、再び執務室を訪れた。
「父上、いえ国王陛下。私ハージュリアは先程のお話、謹んでお受けしたいと思います」
「何を言う。当然だ。お前に拒否権など無い」
忙しそうにペンを走らせ、こちらを見ようともしない父。
「つきましてはユーヴァルト国の王女としての尊厳を保つべく、正妃としての任務が立派に務まるように、この1年間、お忍びでプライザ国の事を学ぶ旅に出たいと思います」
私の発言に父が顔を上げ、ペンを置いた。
「ほう、悪くない提案だ。しかしそれは実は1年経っても帰ってこないつもりではあるまいな?」
「いいえ。プライザ国の礼儀や歴史を学び、正妃として恥じない教養を身につけて、18歳の誕生日、必ずこの場所に戻って参ります」
知識や教養は既に身についているので、その日に帰ってくるだけなのだが。
父はゆっくり椅子から立ち上がり、私の元まで歩み寄ってきた。
初めて至近距離で見る父の顔。
5歳の誕生日に私の魔法の能力が低いことが判明し、それ以来、家族として王族として扱われていなかった。
「誓えるか」私を見下ろす父は静かに言った。
「『緋の誓い』にかけて」
父は胸ポケットから小さなボトルを出し、小さな赤い石を1つ取り出した。
「誓いを破れば、ここから魔獣が生まれる。そしてその魔獣にお前は喰われることになる」
その事はよく知っている。私は頷き、右手を父に差し出した。
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