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お会いしたくて仕方がないのです
私は以前キャシャラルドお姉様から「古いからもう使わない。家出する時にでも使ったら」と戴いた、革張りのトランクケースを自室の収納庫から引きずり出す。
少し重いがこれしか大きな鞄はないので仕方がない。
そして、この鞄いっぱいになるほどの服は持っていけない、むしろ持っていく服がない私のクローゼットの中身。
「久しぶりに見たけど……私、酷い扱いを受けていたのね」
今着ている服もだが、手持ちの服は大体メイドが着潰したお下がり。
その中でも地味めで汚れ、破れの無いものを選ぶ。
時々お姉様のお手伝いでいただいた駄賃も、僅かではあるが巾着に入れて鞄に仕舞う。
唯一の防寒着を手にし、暖炉から小さめの保温石を1つ拝借する。
さぁ、出発だ。
私が部屋を出て玄関から出て行こうとした時「リア、お待ちなさい」と母が奥から声をかけてきた。
表情なく母が私のそばまで歩み寄る。
40年ぶりにお会いする母。
私がプライザ王国へお嫁入りした3年後に、流行病で亡くなった。
その頃の姿に思わず涙を浮かべる。
私も結婚式以降、このユーヴァルトに一度も帰国する事はなかったが。
「そのみすぼらしい姿でプライザ王国へ向かうつもり?」
もしかして、支度してくれるつもりなのだろうか。
薄らと母親の愛というものを期待する。
「こんな子がユーヴァルト国の王女なんて知れたら、みっともないわ。せめて髪色を変えていきなさい」
と、私の傷んだ金髪を魔法で黒褐色の髪色に変えた。
確かにこの金髪はユーヴァルト国の王族の証。
「これがなければ不義の子だと言われかねなかった」と5歳以降散々この母から聞かされた。
いいんです。
私はこんな扱い、慣れていましたから。
私は何の未練も残さず王宮を出て、南に向かう列車に乗った。
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