転生は甘くない

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 転生したい――。  異国の地で勇者になるか。  のんびり農業でもしようか。  美女とイチャイチャ三昧でもしようか。  紙居和希(かみいかずき)、25歳。  性別男。175センチ。  ほどほどの身長と、ほどほどの容姿。  イケメンとは言われないが、“優しそう”と無難な言葉を掛けられる、ごくごく普通の一般市民。  白桃(はくとう)市にある、“株式会社もものうち”の商品管理部。名産品の、桃の加工品を取り扱う会社に勤務。  桃のように甘いホワイト企業でなく、現実は次々と仕事を押し付けられ、気づいたらサービス残業と休日出勤ばかり。  何故かクレーム対応ばかりさせられた。それもまた理不尽なやつ。    “桃の味が少ししかしない!なんだこの水みたいなものは!”  ――果汁3%のピーチウォーターです。  果汁100%のジュース飲みたいならそっち買えよ。お前のミスを押し付けるな。  当初はこんな感じで、心でツッコミを入れていた。だが、いつしかそれもうまくできなくなってしまい、気がつくと全てを背負ってしまっていた。  あ、俺ヤバくね?  と焦ったのは、トイレで少量の吐血をした瞬間。同時に何かがプツリと切れる感覚を抱き、足は会社のビル屋上へ。今から飛ぼうかなと思っている。  なんだか生きてくの、疲れちゃった。  俺は、転生を夢見ながら柵を跨ぎ目を閉じる。ビル風が全身を包み、鳥になったような気分だ。 「バイバイ」  足がコンクリートから離れ、俺は落下した。   *   「ったく、紙居のせいでウチの会社炎上だぞ。ったく面倒くせぇ」 「橋本さん、直属の上司ですけど、どうするんです? 社長は会見するとか言ってますけど、同席するんですか?」 「余計なことはすんなって言われてる。同席しねぇよ。文書出して終わり。残業も休日出勤も、紙居の要領が悪いだけだ。俺はなにも指示してない。まぁ親父がなんとかしてくれるだろ」 「ですよね。橋本さんのお父さん、白桃市長ですもんね。社長は穏便に済ませて、鎮火させると思いますよ」  橋本文則(はしもとふみのり)は上司。35歳。強面で反社みたいな風貌。ゴリマッチョ。父親は市長。  もう1人は永井則文(ながいのりふみ)。上司。30歳。ひょろひょろした細身の体で、橋本の腰巾着。  ちなみに俺は、この2人を“のりのりブラザーズ”と心の中で呼んでいる。  ――――って、そんなことを言っている場合ではない。  なんで俺の転生失敗してんだよ!!!  会社の男子トイレのトイレットペーパーに転生って、聞いてねぇぞ!!!
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