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第一章・花が咲かなきゃ実もならない 4ー②
匠が家を出て1週間。
大介は、やっとその居場所を突き止めた。
そこは夜の新宿の、暗いライトが灯る洒落たバーだった。
匠とはよく飲みには行っていたが、こんな店には来た事がない。
連絡自体はすぐにがついたが、「暫く放っておいてくれ」と言って、切られてしまった。
周りの話や、匠が漏らした言葉から、匠へプロデビューしないかと持ちかけたレコード会社のプロデューサーといるところまでは分かったが、そこからは途絶えてしまった。
ただ、ネット情報でそのプロデューサーがよく出没する店に美しい男を連れていると流れているのを、ドラムの吉野が見つけた。
店の前から匠に電話したら繋がったので「会いたい」と言うと、店の中にいると言う。
来る前には、吉野には止められていた。
その店は、ゲイしか出入り出来ない店だというのだ。
もしも大介がゲイではないとバレたら、不味い事になりはしないかと心配されたが、今捕まえないと埒が明かない。
入り口の扉には『Men Only』という札が掛けられていた。
「マジかよ……匠。お前、女専門じゃなかったのかよ。……てか、俺のケツも無事なままで店から出られるかな」
大介は大きく深呼吸してから、店の扉を開ける。
中は表から見るより広い店で、ほぼ満席だった。
その客の30人程の視線が、一斉に大介に集まると、ヒューヒューと口笛があちこちから鳴った。
その様から、自分は歓迎されているのだとは思ったが、それと同時に恐怖も襲って来る。
入り口に近くにいた、明るい髪をした綺麗な男が大介に近付いて来た。
「お兄さん、1人で来たの?良かったら、僕と一緒に飲まない?」
「いや、人と待ち合わせしてるから」
「じゃあさ、その人と三人で楽しむってのはどう?」
「悪い。俺は複数で楽しむより、1人を啼かせるのが趣味だから」
「残念。じゃあ、次があったらその相手になりたいな」
投げキッスをして、男は去って行った。
我ながらとんでもない発言をしたな、と思いながら店を見回していると、一番奥に見覚えのある茶髪の長い巻き毛の男が座っていた。
背後から肩を抱かれているので、近寄り難いなと思っていると、会話から絡まれているのが分かった。
「なぁ、匠。今日は付き合ってくれんだろ?俺、お前の為に5日もここに通ってんのに、出遅れてさ。今日こそは……」
「悪いけど、こいつには先約がある。……今日も引いてくれ」
そのサラリーマン風の男が、文句を言おうと振り返ったが、大介の体格と威圧感にたじろぎ、逃げるように去って行った。
「……匠。お前、何してんだよ……」
「……とにかく、横に座れば?」
大介は隣に座って、車で来ているからと言ってウーロン茶を頼んだ。
「……お前、車なんて下宿なのにある訳ないじゃん」
「今日は吉野に借りた。近くに停めてる。……それより、これはどういう事だ。ちゃんと分るように説明しろ」
「……俺、スカウトされてさ」
大手レコード会社のプロデューサーが、匠をメインにしたCDを出したいと言ってきた。
集めたメンバーのバンドだが、ヴォーカルがいないらしく、困り果てていた。
メンバーの腕は確かだったが、問題はバンドの売り方だった。
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