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第一章・花が咲かなきゃ実もならない 5ー①
深夜の2時を過ぎた頃、車のエンジン音がして、正実はベッドから飛び起きた。
大介からメールで『匠を見つけたから、何とか連れて帰る』と連絡があって、眠れぬ夜を過ごしていた。
玄関から出ると、その音で両親を起こしてしまうかも知れないと思い、そっとリビングに入って台所の扉から出て、門へと回る。
案の定、大介と匠が車から出てきて、何やら話していたが、その内容に声を掛けるのを躊躇われた。
「俺の為に、正実の面倒みてくれてたんだよな。……本当にゴメン」
「お前は、もう少し弟の面倒をみろ。兄貴のお前が、あいつに面倒かけてどうする」
匠の為に。
大介は兄から頼まれて、正実の面倒をみていた。
大介には、そんな気もなかったのに。
正実の頭の中に、大きな鐘の音がガンガンと鳴り響いて、割れるように傷んだ。
「なぁ。キスしてくれよ、大介」
「何、言ってんだよ。お前は。ここ、家の前だぞ」
「俺、ずっとお前が好きだったんだよ」
大介は無言になっていた。
その姿は、玄関の壁を背にしている正実からは見えない。
覗いて見る勇気もなかった。
「俺はタチ専門だから、お前には絶対に受け入れては貰えないと思ったからさ。言うつもりなかったけど、大学辞めて、もうお前に会えないんなら、言っちまっても良いかと思ってさ」
「……匠……」
「最後にさ、餞別くれても良いんじゃね?」
その後の記憶が、正実にはない。
ただ、街灯の光が差し込んでいる下に、映し出された人影が重なっているのが見えて、思わず目を閉じた。
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