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第一章・花が咲かなきゃ実もならない 5ー②
兄は大介の言う通りに帰って来た。
その後、父親と話し合いの場を設けたが、遂に最後まで歩み寄れずに、匠は家を出て行った。
正実は大介から、何度もメールや電話での連絡を貰っていたが、あの時の兄との会話が忘れられず、どうしてもそれに返信出来なかった。
『兄の事、ありがとうございました。でも、もう会えません』と短いメールだけ送って、拒否設定にした。
大介が好きだった。
大介に恋していた。
だが、大介はそもそも匠の友人だったし、こんなにも年齢の違う自分達が、兄がいなくなった今、会う理由もない。
それでも旬の時期には、毎年必ず大介の名前でさくらんぼが届いた。
最高のさくらんぼを大量に送ってやると言っていただけあって、百貨店に並べば とてつもない金額だろう最高級のさくらんぼだった。
それも、こんな大きな専用の段ボールがあるのかと驚くような量が発送されてきた。
正実は、毎年送られて来るのを涙を堪えながら食べた。
それは、正実と両親が転勤になって引っ越すまで送られ続け、正実が15になった年から届かなくなった。
それ以降、正実にとってさくらんぼは苦い失恋の味となり2度と食べる事はなかった。
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