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第二章・恋の発芽は時期外れ 2ー②
ライブが始まる直前に、正実と倉田はスタンディングでも見え易い場所に連れて行かれた。
この位置ならば、大介のいるベース側だ。
やがてライトが全て落とされ、会場が真っ暗になる。
激しいドラムの後、ベースとギターが重なって、匠にスポットライトが当たる。
爆音のような歓声が轟いた。
10年前のそのままに、全く同じように曲が再現されて、フラッシュバックする。
大介は、あの時と変わらぬ長い髪を揺らして、メロディアスなベースを奏でていた。
見た目も、あの頃と何ら変わらない。
ふと、大介と視線が合った。
その真剣な顔が満面の笑みに変わって、10年間のわだかまりが溶けていくような気がした。
顔に全身の血液が集中して、心臓はドラムのように大きな音を立てて鳴り響く。
再燃する。
あの頃の熱い感情が甦ったように、小さな灯火だった炎に、ガソリンをぶっ掛けられ、一気に爆発する。
あれは間違いなく恋だった。
一生の内に、そう何度も体験する事はない人生の中で燃え盛る瞬間を、子供の頃に体験してしまった正実は、それ以降、そんな瞬間に出会う機会もなく。
そのまま、その炎は消える筈だった。
だが、大介の姿を見ると、もう駄目だった。
あの時の感情がそのまま再現されて、爆走する想いを自分でも止められない。
そして、『STARGAZER』の曲が更に正実をタイムトリップさせる。
この曲を聞くと、ここが日本である事を忘れてしまうような、完璧なるブリティッシュ・ハードロックだった。
いわゆるNWOHMという、イギリスから発祥したハードロックの原点のようなその音楽性は、この上なく崇高で硬派だ。
昔ながらのファンは歓喜し、新しいファンは見た事のない匠の姿と、その美声に酔いしれた。
一時間半程のライブは、あっという間で。
三回目のアンコールが鳴り止まずに、ライブの終了を告げるアナウンスが、いつまでもホール内に響いていた。
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