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第二章・恋の発芽は時期外れ 2ー③
正実が家族に等しいメンバーと再会するとあって、倉田は先に帰って行った。
全く音楽を知らない倉田もそれなりに楽しめたようだったので、半ば強引に誘ってしまった正実も、ひとまずはホッと胸を撫で下ろす。
帰り間際、倉田は何か言いたそうにしていたが、あまりの周りの人の多さに断念して帰って行った。
正実はマネージャーの沙里奈に連れられて、楽屋の扉を開けた。
「正実っ!」
すると突然、視界が真っ黒になった。
正実の小さな体に、大きな体が覆い被さっていた。
「んんっ?!んぐっ!」
「ああ!正実っ!変わらない!変わらないな!相変わらず可愛いっ!」
「苦しいっ!苦しいよっ!大介さんっ!」
「よく顔を見せてくれ。……ああ……もう20歳になったんだってな」
「もう10歳じゃないぞ」
「確かに、可愛いというよりは、……綺麗になった」
「ばっ……、馬鹿じゃないの?!男に綺麗とか!それを言うなら、兄ちゃんの方がよっぽど綺麗だよっ!」
「あれは綺麗は言わないんだぞ、正実。匠のは、底意地悪い美貌と言うんだ」
「何気に毒をブッ込んでくるなよ、大介」
隣で匠の目が座っていた。
「しかし、相変わらず大介の正実病は激しいな。……お前、昔から正実を弟にくれくれって うるさかったもんな」
「今も欲しい!このまま、連れて帰って良いか?」
「やるか!馬鹿!」
このまま連れて帰りたい、という大介の言葉に勝手な含みを感じて、正実は真っ赤になった。
大介の手が、正実の腰を抱いて離そうとしない。
その腰に触れる部分から、ビリビリと甘やかな電気が走って、正実はおかしな気持ちになりそうになった。
だが、解いてくれとは言えなくて。
その真っ赤顔のまま、大介を見つめた。
大介も、そんな正実が堪らないといった感情を抑えきれず、もう片方の手もその腰に回す。
向き合うように抱き合う形になり、正実はアワアワと慌てて、更に顔を真っ赤に染めた。
「正実……。相変わらず、さくらんぼみたいな頬っぺただな」
「だ、大介さんはオジサンになってる筈なのに、何でそんなにカッコいいんだ?……年、とってないじゃん」
「いや、年はとってるよ。昔より狡猾になったと思う」
「こ、狡猾?」
「ズルいオジサンになったって事。もう前みたいに引かねぇぞ?」
何を引かないのだろう、と考えていると、メンバーと沙里奈の目が、痛い程に突き刺さってきた。
「前より酷くなってるな、大介」
「一回、逃してるからな」
「いや、あん時、捕まえてたら犯罪だろ?」
「大介さん、一途なんですね」
各々が言っている意味が分からなくて、正実がオロオロしていると、頭上の大介が代わりに声を発した。
「お前ら!今日は協力してくれんだよな!」
「「「へ~い」」」
「じゃあ、打ち上げは週末の金曜日に改めてって事で、今日は解散な!」
解散か、と正実も大介から離れようとすると、更にグイっと腰を引き寄せられた。
「こらこらこら、お前にはいっぱい話があるんだ。今日は帰さねぇぞ?」
「い、いっぱいって……」
「そりゃもう、一晩では語り尽くせない位にな」
何だか、大介がおかしい。
見た目は以前と変わりないが、以前からこんなにもフェロモンを爆発させていただろうか。
昔から男前ではあったが、ここまで色気が駄々漏れしていたような記憶はない。
どちらかといえばクリーンなイメージがあって、こんなセックスアピールの強い男だった覚えがない。
「……なんか、大介さん。昔より、エロくなった?」
「そりゃあな。オジサンも10年も煮詰めてたら、エロさも極めるかな?」
「え?……エロい親父?……怖っ!」
「怖がらせねぇよ。優しくしてやる」
「だからっ!何で、何にもない普通の会話も、何かエロいの?!何、コレ?」
「逃がさねぇぞ?正実。今度は逃げたら縛るぞ?」
「うわぁ~!何なの~?!何かゾワゾワしてきた~!」
正実は首根っこを捕まれて、楽屋を連れ出された。
残されたメンバーは、唖然としていた。
「昔からさ、正実には敵わないって思ってたんだよな。あの頃から、対抗する気にもならなかったというか」
「え?匠、なんて?」
「何でもねーよ!ほら、大介はいなくても、打ち上げ前哨戦は やるんだよな?!さっさと片付けようぜ」
匠の心は晴れやかだった。
昔、鬱積していた頃の、後ろめたいような大介への想いは昇華している。
あの頃を思い返しても、その感情が思い出せない程に、それは遠い記憶となっていた。
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