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第二章・恋の発芽は時期外れ 3ー①
ライブの後、空腹を訴えていた大介は、行き付けの居酒屋へ正実を連れて行った。
そこは、小料理屋といった雰囲気の店で、年老いた夫婦二人で経営していた。
「オッス!連れて来たぜ~!オヤジ!あれ、頼むわ!」
「おう、大介!やっとかよ~。この年寄りには長い修行期間だったぜ。……て、おお!想像以上のカワイコちゃんじゃねーか!」
カワイコちゃん、と呼ばれたのは自分の事だろうか、と正実は首を捻らせた。
「正実、酒は飲めるか?」
「うん、まぁ。ちょっとは」
「ビール位?」
「ビール位で」
カウンター席の一番奥に座ると、狭い店だからか、大介が大柄だからか、腕や膝がぶつかってしまう。
大介が隣に悪いからと、正実を壁に押しやるので、更に体が密着してしまい。
大介の男の体臭が、漂う程に近く。
気が付けばまた、自分は頬を染めていた。
それは、慣れないビールのせいだけではなかった。
店の隅っこで、頬を染めながら小さくなって縮まっている正実を見て、突然、大介が唸り声を上げた。
「……っまんねーな!オイっ!」
「え?な、何が?」
「何でもねぇよ!……ほら、来たぞ!」
店主に握られていたそのプレートは、間違いなく『お子様ランチ』だった。
こんな小料理屋で出てくるメニューの筈がない。
それは『作らせた物』でしか有り得なかった。
「ここの親父はさ。俺が東京にいる時は必ず来るから親みたいに世話になってて。お前とのお子様ランチの話したら、「連れて来たら作ってやる!」って豪語しててさ」
「スゴい……。何年ぶりかな。お子様ランチ……」
「まだ、旗、置いてるのか?」
「置いてるよ!もう、スゲー数だよ。ちゃんとファイルしてあるんだ」
正実はそのお子様ランチの旗を抜いて、刺さっていた部分をきれいに手拭きで拭いた。
大介も自分の分を渡してやると、目を見開いて喜ぶ。
「ビールにお子様ランチって凄いアンバランスだな」と言いながら、正実は必死になってかぶり付いた。
店主のオヤジに「スッゴく美味しい!」と感想を言うと、オヤジはカウンターの中でガッツポーズを取っていた。
流石にそれだけでは大人の腹には足りないので、他にも何品か頼んだ。
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