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第三章・愛しのCherry 1ー②
朝起きたら、物凄い数の着信履歴と、メールの件数に驚愕した。
メールのどれもが似たような内容で、「話がしたい」「電話に出てくれ」「勘違いしないで欲しい」と言った内容だった。
恐らくは事務所に志保理が来たのを、匠に聞かされたのだろう。
正実は散々悩んだ末に「昨日、婚約者の方と、お子さんが訪ねて来られました。ご連絡まで」と端的なメールだけ返して、電源を切った。
当て付けがましかったような気もしたが、一晩経って冷静になってみると、あの時のショックや、悲しみなどの切ない気持ちは、全て怒りに切り替わっていた。
今、心穏やかに話を聞ける状態ではなかったし、また大介からの言い訳も聞きたくはない。
大学に行くと、倉田が「何か機嫌悪いな」と漏らす位だから、他の人間にも分かるようなあからさまな態度を取っているのかと思うと、急に申し訳なくなり猛省した。
気もそぞろなまま授業を終えて、大学を出ると、門の前に派手なスポーツカーが停まっていた。
真っ赤のジャガーなんて、日本人で良く乗れるなと思いながら通り過ぎようとした。
「正実っ!」
その派手な車から、聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、長い髪を1つにまとめ、スーツを着た大介が車の中から出て来た。
「正実っ!待ってくれ!話を聞いてくれ!」
「今は、聞く心のゆとりがない。……少し、そっとしておいて」
「駄目だ!こんな状態のままでいるなんて、耐えられない!」
「ちょっと!ここ、学校前なんだけど!みんな見てんだろ!また今度にして!」
「話を聞いてくれなかったら、ここで騒ぐぞ~!」
子供か!と正実も怒りを露にしたが、あまりの視線の痛さに耐えきれず、結局は大介の車に乗った。
車を走らせると、正実は窓の外を眺めて、大介の方を見ようとはしなかった。
ただ、あれだけ忙しかったのに、急に現れたものだから、もしや自分のせいで仕事をサボっているのではと不安になった。
「大介さん、仕事は?忙しかったんじゃないの?」
「今朝、外国からの視察団を空港まで送って行った。当分はヒマだ」
「あっそ」
じゃあ、やっと彼女とお子さんとお出掛け出来るね、と言いかけて止めた。
それは、あんまりにも嫌味ったらし過ぎる。
「話を聞いてくれ。正実」
「言い訳なら言わないでくれ」
「言い訳じゃない。全部、話すから」
大介は深い溜め息をつき、話し始めた。
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